将来を切り拓く生徒の育成

      〜キャリア教育を通して〜

               
発表者 糸貫中学校 鳥村 直基 教諭


 糸貫中学校は本巣市の南部に位置し、周りにはブランド柿の富有柿の畑が広がっています。学校の北には、大型の商業施設もあります。本校の教育目標は「友愛・挑戦・克己の心で行動できる生徒」で、仲間とともに、より高いものを求めて、努力し続ける姿をめざしてします。そのために、力を入れているものは、次の4点です。

・教育目標の具現に徹する指導の充実
・生きる力を付けるキャリア教育の推進
・生徒会による自治力・自浄力の育成
・魅力ある授業づくり

すべての教育活動を通してめざすのは、教育目標の具現ですが、それは、ひとりひとりの生徒に進路を選択できる確かな力をつけることだと考えています。学級活動や学校行事、総合的な学習の時間を核にしながら、職業や勤労について理解を深め、自己の進路計画を設定し、進路情報を適切に取り入れながら、自己の力を着実に高めていく生徒を育てようとしています。
生徒の実態を見たときに、学習委員や教師のこだわりもあり、授業での「聴き方」、「話し方」の姿は向上してきました。しかし、生徒自身が「なぜ学ぶのか」、「何のために学ぶのか」といった学ぶ目的に弱さがあるので、昨年度までは、教科の研究をしていましたが、本年度は生徒自身に「学ぶ目的をもたせる」ということに重点をあてるために、「キャリア教育」に視点をあてて、研究に取り組み始めました。次のような願う姿、研究主題を設定し研究を進めてきました。

願う生徒の姿
 自分が自分をして生きるために「学び続けたい」
 「働き続けたい」と強く願い、それを実現させていく姿

研究主題
 「自己を見つめ、人とのかかわりを通して、将来を切り拓く生徒の育成」

 願う生徒の姿を創りだすために大切にしたい姿は、以下の3点になります。
・自己を見つめる姿
・人とかかわる姿
・将来を切り拓く姿


 この姿を目指すための3つの研究方法
1、一人一人に付けたい力を明らかにしたカリキュラムの見直しする。
2、全教育活動において進路学習を意図した取り組みをする。
3、「自己を見つめる力」を育てるための有効な働きかけをする。

そして、3カ年計画の1年目として特に力を入れたいことは、「生きる」を使った進路指導の充実と進路指導関連の行事活動の充実をはかっていくことにしました。

 この研究を進めるにあたっては進路を選ぶための4つの力自己理解・進路情報・勤労感、職業観・進路計画についてと現在、キャリア教育で身に付けさせたい力(基礎的・汎用的能力)・人間関係形成・社会形成能力・自己理解・自己管理能力・課題対応能力・キャリアプランニング能力を意識して取り組んでいきました。
 
さらに、本校の行事と「生きる」の学習内容のリンクも考えてみました。



4月からの実践
 はじめに岐阜県の進路学習、キャリア教育の中心として活用している「生きる」をしっかり使っていくことを教職員の中で確認しました。5月には、全校研究会を行いました。1年生の方で、「生きる」の1−2 私の夢と希望(2)です。キャリア教育の身に付けたい能力を「自己理解・自己管理能力」、「人間関係形成・社会形成能力」としました。
 この授業で工夫したことは、前時の『わたしの夢と希望(1)』で、クラス全員の、夢をはっきりさせたことです。このような授業をするときに、夢や希望が出せない生徒がいることはないでしょうか。幸い、小学校の卒業時に将来の夢を活字にして残しているので、それらの思いを大切にしながら、夢をもつことができました。一人一人が自分の思いをしっかりもてたので、本時の授業も同じスタートラインにたって授業ができたのだと思います。
 工夫の2つ目は、本時で、自分の夢を仲間に語るときに、班を活用して、少しでも人間関係が出来ている中で、自分の思いを語っていったことです。仲間の思いを知ることで、自分の考えと比較することにつながりました。
 工夫の3つ目は、夢や希望が具体的である人の中で、特に3人の人が自分の将来について、詳しく思いを語ってくれたことです。この活動が入ったために、「生きる」の資料だけでなく、終末で、今後自分はどのように努力していかなくてはいけないかなどをよく考えることができたと思います。I子さんは、「最初はこの仕事がおもしろそうとしか思っていなかったけれど、A子さんの作文を読んで、笑顔を大切にしたいと思った。」やK男さんは、「農業関係の仕事に就きたいと考えていたけれど、計算などの技術も高めていきたいと思った。」という思いが発表できました。この授業を通して、自分の思いを語る場面や、仲間の意見を聞く姿などから「自己理解・自己管理能力」、「人間関係形成・社会形成能力」がついたと思われます。

 次に、多くの学校で行われている職場体験について、キャリア教育の視点で行ったことを述べます。2年生では、夏休みに「職場体験」を行っています。今年は、学校近隣の事業所34か所で体験をさせていただきました。職場体験では、準備からまとめまでさまざまな活動があります。「生きる」の2−1「働くことの目的と意義」を授業で行ってから、2−3「職場体験の計画」などは、「生きる」を参考にして、冊子を作り、生徒が活用しやすいようにしました。

 職場体験につながるキャリア教育として、特に、2年生では、若狭宿泊研修で行った「民宿の方と語る会」があります。若狭の民宿の方は、漁師と民宿の経営という2つの仕事をもってみえます。特に漁師という仕事は、この糸貫での生活とは違い、自然を相手にした、とても危険な仕事です。町の漁師が協力して定置網をやっていることや、いつも決まった量の魚が獲れるわけでもなく、安定した収入を期待できないこと、冬場は違う仕事もしていることなど、自分たちの周りで生活している人とはずいぶん違った仕事があることを知りました。この違いを感じることが、「人間関係形成・社会形成能力」を付けることになると思います。

 ここでは、今年新たに挑戦したことを話させていただきます。まず、職業レディネステストを行いました。



多くの質問項目から現在の自分の仕事への適性などを自己理解しました。将来の夢を一致して安心する生徒もいましたが、自分の夢と違い、新たな自分を発見した生徒もいました。職場体験できる業種は限られているので、すべての生徒が自分の適性や思いと一致するとは限りませんが、このデータをもとに、事業所を選んでいった生徒もいました。
 K子さんは、「保育関係の仕事に就きたいと考えていました。職業レディネステストの結果から、自分の興味のある保育のところの数値が高かったので、自信をもって、その道に進んで行きたいし、職場体験も頑張りたいです。」と言っています。
「自己理解」をしていくという点では、大変よい活用ができたと思います。
次に、事業所選びの場面で、「履歴書」というものを書いてみました。



これは、社会に出たときに、このようなもの書いていくということを知ってほしかったという点「キャリアプランニング能力」と、長所や志望理由を書いていくときに、「自己理解」がないと書けないという点で、履歴書を書きました。はじめての経験でもあり、生徒はとても真剣に緊張感をもって書きました。将来にむけては、とてもよい経験になったと思います。
A子さんは、履歴書の中でこのように書いています。
「職場体験を通して学びたいことは、仕事の大切さとやりがいについてです。銀行は、お客様のお金を預かる大切な場所です。だからこそ、職員の方たちの本気で仕事に取り組む姿を見学し、自分で体験し、仕事の大切さを学びたいです。」

 3つ目の新たな挑戦は岐阜放送の浅井美幸さんを招いて、マナー講座を開きました。これは、職場体験のときに、生徒たちに最低限のマナーを身に付けて体験をしてほしいという願いから、お願いしました。当日は、あいさつの大切さや、笑顔、人と接するときに注意しなくてはいけないことを話していただき来ました。
N子さんは、その後の感想で「人と接するときは、あいさつがとても大切なんだということが改めて分かりました。今度の職場体験では、お店の方やお客さんにやる気が伝わるようにハキハキとした声で、あいさつをしたいし、社会に出ても恥ずかしくないような態度を目指したいです。」と書いています。
 実際に職場体験では、美容室で、「あいさつがよくできてよかったです。」という言葉も頂くことができました。生徒は、ここで学んだことを、職場体験の場で、少なからず生かしてくれました。これは、「人間関係形成・社会形成能力」につながったと思います。

 生徒たちは、この体験を通して、「人間関係形成・社会形成能力」、「課題対応能力」がついたと思います。当然、新たな挑戦以外で、今まで通りやってきたこととして、アポイントメント取り、まとめなどもキャリア教育の視点にたって行っています。また、図書室にある「なるにはブック」や「明日をつかめ」のビデオ視聴、新聞による仕事の紹介などを通してキャリア教育に関する環境を整え、「キャリアプランニング能力」をつけるようにしています。


 このように、どの学校でもやっていることの紹介でしたが、それらの活動にキャリア教育の視点を意識して活動してきました。まだ、始まったばかりのことで、十分な成果も出ていませんが、学校全体で「生きる」をしっかり活用していこうという確認ができ、その動き出しができていること。キャリア教育の4つのつけたい能力を意識して、活動が進められたことが成果だと思います。
 また、課題としては、実践をしていく中で、指導計画の見直しをしていく必要があるということと、せっかく、特活や総合的な学習の時間で「キャリア教育」を意識して取り組んできたので、普段の授業や活動でも、その視点を大切にして活動できるとよいと考えています。