伸樹祭は輪之内中学校で最初に行われる行事である。
「合唱を通して仲間のよさを知り,学級や学年の団結力を高め,学級や学年目標を具現する第一歩となるようにする。」というねらいで取り組んでいる。

曲決めの段階では,一部の生徒が寝ているという問題や,生徒会の取り組みにも真剣に取り組めないという実態があった。担任はこのままの状態で願いをもたせたくないと思い,てこ入れをした。そして,願いをもつ場の話し合いでは学級の願いや約束が出来上がり,それに向けて練習が始まった。

高め合う場の実践では、子ども達は、合唱交流会の自分たちの合唱する姿をビデオで見て,自分たちの合唱に満足をしていた。しかし、担任は模範となる合唱のビデオを見せて,もっとよい合唱にさせようとした。その結果、さらにこだわっていきたいことがはっきりとした。リーダーは「今後は全体のバランスをよくしていきたいです。細かい指示などをできるようにみんなの歌をよく聞きたいです。パートリーダーとして頑張りたい。」という決意をし,後半の練習に入った。

確かめる場の話し合いでは,合唱を通して,リーダーの成長や学級の絆を深めることができたといった成果が得られた。その一方で,まだ本気で語り合えないという弱さも明らかになった。担任はそういう姿の交流で終わるのではなく,仲間同士でメッセージカードを書き,一人一人の伸びや高まりを顕在化させようとした。

以上のように実践をしたことをまとめることで,指導計画の作成につなげていこうとしている。
 

デジタルデータに加えて,生徒たちにも行事を通して自分たちがどんな成長をしたのかをいつも思い出せるように,背面に掲示として残した。
 

研究内容2の実践事例
伸樹祭に向かう中間反省の学級活動の様子
この時間は自分たちのこれまでの合唱の取り組みを,最初に決めた学級目標に照らし合わせて振り返った。話し合いの必然性をもたせるために,合唱交流会の時の自分たちの歌う姿をビデオで見ること,そして,合唱に向かうときの約束ができているかどうかのアンケート結果を見て考えさせた。しかし,その結果だけを見ると,うまくできているように多くの生徒は感じてしまった。そこで,生徒の司会の中に教師の切り返しの発問も入れながら,自己の課題点を見つめさせた。また,話し合いを深めるために,合唱の中心となって活躍していた歌声班長の思いを語らせて,その中から自分たちの気づいていなかった課題点に目を向けさせようとした。話を聞いて,他の生徒はより自分の弱い姿に目を向けるようになった。最後に,後半の練習に向けて各自の決意を書き,合唱することで話し合ったことを姿で示した。
 1学期はリーダーの意識を他の生徒にぶつけていくことで,話し合いを深め,学級のまとまりを高めていくようにしている。3学期の学級のまとめの時期においては,うまくいかなくても一生懸命努力している生徒に焦点をあてて話し合いを深めていくようにしている。


研究内容3の実践事例
 毎回行事を行うときに,目標や反省を書く用紙を全校で統一した1枚を活用している。話し合いのたびに用紙を配布していては煩雑になる。1枚の用紙の中に自分の心の移り変わりを自分自身でできるようにしている。まず,行事の取り組みの前に学級の願いや個人の願いを考えて書く。そして,毎日の練習を終えた後で各自が振り返る。それを積み重ねていく。中間反省のときに振り返ったこともそこに書き,最後に行事を終えた後の確かめる場の授業で,自分の姿を初めから振り返る。

 また,行事と日常をつなぐということを大切にしている。行事を成功させるまでに,生徒会主催による全校統一の時間の取り組みをしていく。合唱を成功させるためには,日常生活も大切にしていきたいと,生徒たちが望んでいるからである。あるクラスでは伸樹祭を終えた後で,時間の意識が十分に高まっていないということが課題となった。これを克服するために,どんな取り組みをするべきかを計画して取り組んだ。中間反省もして,後半の取り組みをやりきり,学級のじまんとなるものをつくった。このように,どの学級も1学期を締めくくるにあたって,これは他の学級に負けないというもの(じまん)となるものをつくって締めくくることができるようにした。最後には反省会をし,自分たちのじまんとなったことを確かめた。
 具体的に2年生では,1学期の終わりになって,1年生の時にじまんであったあいさつの声が小さくなってきたことに生徒が問題を感じた。自分たちのよさとして褒めてもらっていたことができなくなったことに対して,何とかしようとリーダーが動き,改善策を考えた。それは、1日あいさつをしてはいけない日を設定して,あいさつの大切さに改めて気づこうとするものだった。そんな1日を終えて,ほとんどの生徒はあいさつをしないことに「窮屈さや罪悪感」を感じ,あいさつをしないのはつらいと言い出した。それによって以前よりも元気のよいあいさつができるようになった。このように自分たちで考えて,自分たちの生活をよりよくしていこうとする雰囲気ができてきた。

 活動の後には振り返りを行い,仲間とのかかわりの中で頑張ったことに対して自己肯定感をもち,これからも頑張っていこうとする気持ちを高めることができる生徒を多く見ることができた。例えば,生徒会主催の取組に対して3年生としての姿について学年集会で考えたときの振り返りでは,「Aさんの話を聞いていて,思いがこみ上げてきて,最初から泣いてしまいました。自分の言葉で本音で話しました。みんなを見ていたら泣いてくれる子がいっぱいいてびっくりしたけど,ものすごくうれしかったです。みんなに私たちの思いが届いたのかなと思います。準備とか大変だったけど,やってよかったです。心からそう思います。これからのみんなの姿が楽しみです。」
 伸樹祭の練習の時には,「今日はみんなで口の大きさを見合いました。それで口が小さいと言われたのは,Aさんと私でした。Bさんも前から私の口の開き方が小さいと思っていてもなかなか言えなかったんだと思います。でも,今日言ってもらってよかったと思いました。」という振り返りを学級通信で紹介した後で,「今日学習の振り返りの時に,合唱でできていない人を言えなかった仲間の気持ちがよく分かりました。私も,いざ言おうとするともうあの子と話してもらえなくなるかも,と不安に思って早く言えませんでした。でも,その子のためと思って言えました。」というような姿が生まれてきた。頑張ってできたときも,できなかったときも,仲間とのかかわりの中でこれからも頑張っていこうとする姿を生み出すために,日々の生徒の反省をさまざまな形で担任は広めるようにしている。


実践後の成果
○必然性のある課題提示と本音で話し合える場を意図的に仕組むこと
○学級や学年のリーダーが育ってきたこと
○意図的にかかわり合う場を仕組み,見通しをもった指導ができたこと
○行事でつけた力を振り返り,日常でもいかせるような力をつけることができたこと

課題
●課題意識をもち,それを克服するためにどんな手立てをもてばよいのかという見通しをもてるリーダーを指導すること
●弱さを表出する生徒の気持ちを受け止め合えるようなかかわり合いをもてるようにすること
●これからの指導のあり方を探るために,生徒の自己評価を累積して比較しながら,次への指導にいかしていくこと

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