~ ブルースハイウェイを南下 ~
テリーは、自分が現役バリバリでフィッシングガイドをやっていた頃と違い、今どきのガイドは装備が随分違うと言う。ボートとエンジンは大型化し、自動運転のエレキを装備。高精度の魚探と航路軌跡が記録できるナビは必需品。これによりバッテリーの消耗も激しい様子。不測の事態に対応するためボートは2艇所有し、当然ながらボートを牽引する大型四輪駆動車とボートトレーラーが必要。これらを維持管理するため経費は、相当な金額になる。およそ3年に亘る新型コロナの影響は甚大で、多くのフィッシングガイドはギブアップ。生きていくために、別の仕事へ転職したしたらしい。
こんな話をしていたら、私たちの会話が聞こえていたかのようにウィルから電話が入った。どこも大雨・洪水で大変な事になっているが、ラッセルリバーなら水位は高いが釣りは出来そうだと教えてくれた。遠い日本からトシが釣りに来ているので、「何とか魚を釣らせてあげたい」という言葉が電話口から伝わってくる。因みに、最近の流行りは、ワームのオフセットシングルフックにブレードを噛ませたルアーらしい。コレを使えばタフな状況でも「ボウズなし」だそうで、客に魚を釣らせるのが最重要なガイド業としては重要アイテムなのかもしれない。
~ サトウキビ畑の横に ~
午前7時半、バビンダクリーク、その先のラッセルリバーを通過しながら、水位と水色を横目でチェックする。ウィルが教えてくれたようにラッセルリバーはソコソコ良さそうな感じがした。更に南下し、7時45分、ジョンソンリバーを橋の上から見ると・・・濁流の洪水状態。いつ決壊してもおかしくないような高水位で、とても釣りが出来るような状況ではない。イニスフェイルの街に入る前に大きくUターンし、白いアレキサンドラパームの花を見ながらラッセルリバーに戻る。
午前7時50分、ラッセルリバーのボートランプへ向かう道が見事に水没。とても車が入っていけるような道路事情ではないのでギブアップ。路肩に車を落とさないよう注意しながら、道路幅いっぱいを使ってUターンし、バビンダクリークまで戻ることにした。途中、行きかう車には、この先が通行出来ない事を伝えながらブルースハイウェイまで戻る。
ブルースハイウェイを右折し、バビンダクリークのボートランプへ向かうサトウキビ畑の中の道路を進むと、クリークへ到着する随分前から広範囲で水没していた。このエリアは頻繁に水没するようで、道路脇に注意を促す看板が立っている。ここも諦めるかと思いきや、テリーはこの先まで行く気満々。水中に見える白いセンターラインを確認しながら、ゆっくり前進する。Uターンをする場所を探しているのかと思っていたが、そうではなかった。
テリー曰く、こんな経験は3度目。20年以上前、日本人客をガイドした際にも同じような状況になったらしい。「何をするのか?」と不思議に思っていると…道路脇に広がるサトウキビ畑の横にボートを下ろすと言う。斜めにバックし、トレーラーを路肩に落としてボートをリリース。ボートランプは、ここから少し先にある。「車を水没しない場所へ止めに行くから、暫くボートをホールドしてくれ」と言い、私をポツンとその場に残して走り去った。
頼まれたから仕事を全うするしかない。水没しているエリアの水は停滞しているのではなく、流れがあり水位は徐々に上昇している。しかも、時折、水の動きでボートがグワァ~と流され、その場に留めておくのも一苦労だった。
テリーを待つ間、仁王立ちになって激しく揺れ動くボートを全力でホールドしながらアレコレ考えた。日本では、洪水に見舞われている時に釣りをするようなお馬鹿さんはマズいないだろう。まして、道路脇にボートを下ろして川まで行くなんて事を考える釣り人もいないのではないか。釣り好きのOZガイはハチャメチャ、破天荒、クレージーな人が多いとも聞く。いずれにしても、過去25年に亘る豪州遠征で初めての経験。果たして、今日は釣りが出来るのだろうか。
~ 濁流の中、爆裂バイト ~
戻ってきたテリーとボートに乗り込み、エンジンを下ろしてゆっくりと道路とサイトウキビ畑の間を進む。濁流溢れる川まで出たところでアクセルを開き、濁り水をかき分けながら上流へと向かう。ボートが進んでいる場所が、川なのか畑なのか、はたまた道路なのか分からないぐらい水位が上がっていた。バビンダクリークはラッセルリバーの支流で、途中で繋がっている。合流点に辿り着くとラッセルリバーの水は泥濁りだったが、バビンダクリーク側はクリアだった。
午前8時45分、実釣スタート。ラッセルリバーの濁り水との境目をポップンダックを使ってポッピング。テリーは懐かしのベビーポッパーを投入。フルキャストして広範囲に探っていると、爆裂バイト。魚の正体は不明。一度も姿は見せず、水中で強く引いたがファイト途中でフックオフ。回収したルアーを見ると後部フックハンガーのスイベルが変形し、フックも伸ばされていた。やはり、この華奢なルアーで豪州魚と勝負しようとするのは無謀だったか。
川の流れが強く、ボート位置の維持が難しい。このような時にGPS付きの最新エレキだと、自動操舵で現在位置をキープしてくれるのだが、このエレキにはそんな機能は付いていない。のんびりとフック交換をしている余裕がないので、ペンチで形を整えて再びキャストを始める。程なく、ポップンダックに爆裂バイト。直後に良型ターポンが空中に舞い、ルアーを吹き飛ばして魚は水中に消えた。
その後は、魚の群れが移動してしまい反応がなくなった。ボートを上流に走らせ、魚がいそうな所を探したがギブアップ、下流へと戻り、運河の中を走ったがここも魚の気配はない。頭上には青く輝く蝶ユリシスや黒い蝶が舞い、ワライカワセミがけたたましく鳴く。日差しが強まり、青い空と洪水で濁った水のコントラストがとても奇妙だった。
~ 次はマグレブリバーだ ~
午前10時、全く魚の反応がなくギブアップ。来た時と同じく、サトウキビ畑と水没した道路との間を、エンジンを使いゆっくりと進み、道端にボートを寄せて停船。私にボートをホールドさせ、テリーはザブザブと水をかき分けながら車を取りに行く。よくよく考えると、ここはクロコダイルの生息域ではないか?周囲に気を配りながら待つこと数分、長い距離をバックしながら彼が運転する車がやってきた。後方確認がしづらい車でトレーラーを牽引しているのに、必ずしも直線ではない道路を延々とバックしてくるなんて流石だ。その後、車を路肩に落とさないギリギリまで下がり、トレーラー後部を水の中に突っ込む。
こんな狭い場所でボートをピックアップ出来るのか? そんな心配をする必要は全くなかった。テリーはボートを絶妙な角度でコントロールし、トレーラーの後ろにピッタリと位置づけ、エンジンを吹かして架台に押し上げた。僅かな時間でボートを引き上げ、私たちはブルースハイウェイに向かって水没している道路をゆっくりと走り始めた。
時計を見ると、まだ午前10時半。これからどうするかと思いきや、次はマグレブリバーへ行くと言う。車中で、ドライフルーツが入ったパンを食べながら15分程のドライブ。マグレブリバーのボートランプに到着した。ここも増水によりボートランプ一帯は水没していたが、昔と違ってしっかりと舗装されているのでボートは余裕で下ろせそう。以前のボートランプは、荒れた斜面でズブズブのドロドロだったハズだが、綺麗なトイレまで作られ周辺部も含めて整備されていた。
川が濁っている時は、上流へ上がりクリアな水を探すのが鉄則。ボートを走らせて間もなく、雨が降ってきたのでカッパを着る。「もう、雨は十分降ったからいらないよ~」などと言いながら更に上流へ。今日は、昼過ぎまで雨が降ったり止んだりを繰り返す天気らしい。1本目の橋は、水位が高く橋底部との隙間は狭い。このままでは、橋下を通り抜け出来ないのでイスを全て外し、船底に寝そべって潜り抜けた。
近くにあるクリークに入ってみたものの、水位が高過ぎてまともな釣りが出来ずに直ぐ本流へと戻る。大きなカーブを曲がり、更に上流へ向かうと、真正面にピラミッド山がド~ンと見えた。2つ目の橋は、なんと水中に沈んでいた。エンジンをチルトアップさせて、橋の上をゆっくりと通過する。まさか、水没している橋の上をボートで通過するほど、水位が上がっているとは。テリーも初めての経験だと言う。もし、帰路で水位が中途半端に下がり、橋の上若しくは下を通れないような状況になると、私達は家に帰れなくなってしまう。
~ 行く手を阻む橋 ~
泥濁りの中、ボートを上流へ進めている、前方に3本目の橋が見えた。水面が橋底に迫っており、一目見ただけでこの橋は通過できない事が分かる。橋の手前で大きくUターンして戻り、クリークの中に入ってみた。ポップンダックを使いポッピングしていると、後ろからジャングルパーチが追尾するのが見えたが、途中で姿を消した。魚の姿を見たのは、僅かにこの一回だけ。テリーがクロコダイルを目撃したので、この場から退散した。
昼12時過ぎ、木陰に入ってランチタイム。雨が上がると直射日光がジリジリと肌を刺す。今日のお昼は、飛びっきり辛いサラミソーセージを挟んだサンドウィッチ。各々が具材を手にとって作り、パクつきながらジンジャービールで胃へ流し込んだ。30分程休憩し、午後の部をスタートする。少し下流へ移動したところで流れ込みを発見。濁りのない水が流れ込んでいたのでチャンスありと判断し、ロングAをピンポイントで打ち込む。ポーズの時間を長めにとったバラジャークを繰り返し、暫く様子を伺ったが反応なし。テリーも両手を挙げてギブアップした。
その後、下流へ下りながら数か所でルアーを投げてみたが魚の反応はなく撤退決定。午後1時半にボートランプへ戻ってきた。川の水位が大きく下がった結果、水没していたボートランプ周辺の水が引き、通常の様子に戻っていた。駐車スペースには、私達の車以外のトレーラーを装着した車が数台停車しており、泥濁りの川の中で釣りをしている様子。クレージーなのは私達だけではなかった。
~ 初挑戦 公園内のリリーク ~
ケアンズに向けて北上する。早朝立ち寄ったガソリンスタンドで、再びガソリンを補給し明日の釣行に備える。午後2時半過ぎにテリー宅へ到着。マリアさんと、預かっている2人の可愛らしい女の子が私達を出迎えてくれた。本日は、これで終了かと思いきや、特別な場所へ案内してくれるとテリーが言う。ボートトレーラーを切り離して、20分ほど車で走った。
その場所は、テリー宅の裏山にある公園グーンボーラパーク(Goomboora Park)内を流れるフレッシュウォータークリーク。最終的にバロンリバーに流れ込むらしい。彼が子供のころ、魚釣りをした場所。ポッパーや小型ミノーを使ってジャングルパーチが狙え、稀にバラマンディも釣れるとのこと。スピニングタックル1本持ち、小さなボックスに小型のルアーを数個見繕う。ボール遊びをしている家族連れやウォーキングを楽しむ人達を横目で見ながら公園内の芝生を横切る。暫く歩くと、うっそうと茂る樹間の先に目指すクリークがあった。
ルアーをキャスト出来る足場は限られ、枝葉の隙間を狙って速い流れの中にルアーを打ち込むテクニカルステージ。選んだルアーはバブルクランク、ビートルナッツS、Dコンタクト、月虫SR。周囲を樹木に囲まれ、対岸の枝葉も伸びているのでキャストの際には細心の注意が必要だった。数投げて反応がないと場所を移動するという結構ハードなクリークの釣り。テリーの見切りはとても早く、彼に付いて行くのは大変だった。
テリーによると、普段はもっと水量が少なく、魚がよく見えるらしい。今日は水量が増しているうえに流れがキツイようだ。随所に洪水の跡が残っており、魚は何処かに散ってしまい、ルアーを追う姿は一度も確認できなかった。水温は低く、場所によって激流になっているのだが、水遊びをする人も多い。上流からは若者がビーチマットにしがみつきながら流れてきて驚かされたり、散歩している犬が突然泳ぎだしたり、キャストしている私の後ろにウォーキングしていた人が立っていたりと、何かと集中出来ない場面もあった。
一時間半ほど、竿を振って2人ともノーフィッシュ。テリーはミスキャストで対岸の樹木の中にポッパーを打ち込んでロスト。彼のキャスト精度はピカイチなのだが、朝からの転戦で相当疲れが出ているに違いない。午後4時半に納竿。本日は2人仲良くノーフィッシュ決定。豪州遠征でまさかのボウズをくらったが、洪水の中、やれることはやったので諦めがつく。普通のフィッシングツアーだったら今日みたいな日は確実にキャンセルだろう。
~ 嫁さんのトラブル発覚~
帰宅後、シャワーを浴びながら、ついでに汚れ物を洗濯する。気が付けば公園内を歩き回ったクロックスの靴底が剝がれ始めていたので、テリーに強力な接着剤を借りて補修。愛用の赤い名竿バンタムスコーピオンのグリップもコルクが外れていたので、ついでに修理した。前夜はデイパックを修理したばかりで、テリーに笑われた。私が使っているほぼ全ての物が、古びた物ばかりで経年劣化が著しいのだ。常に目配りをしていないとトラブルを起こすので油断ならない。
夕食はポークステーキとマッシュポテト、ニンジンとインゲン豆の付け合わせ。テリーとマリアの3人でテーブルを囲んで食べる。食後はアイスクリームを頂いて、読書をしながらノンビリとリラックス。一方、テリーのスマホは鳴りっぱなし。OZガイ達は電話好きらしく、やたらと電話を掛けまくるようだ。電話の内容は不明だが、度々私の名前が出てくるので話題のタネになっている様子。
午後9時、テリーにお休みの挨拶をしに顔を合わせた際に嫁さんのトラブルが発覚。彼のスマホに彼女からテキストメッセージが送られて来たとのこと。どうやら彼女は、H.I.Sを通じて申し込んだケープトリビュレーション1日ツアーで、乗っていた送迎バス車内にカッパを置き忘れて紛失したらしい。無くしたのは、ド派手なシマノ製の黄色いジャングルプリント柄の上着。本人は同じバスを使ってツアー先をアチコチ移動するものと思っていたようだが、送迎バスは数台でツアー先の施設をグルグル周回しており、バスだけでなく運転手さんも時間単位で交代してしまうらしい。
オーストラリアに到着して3日目、嫁さんは単独行動になった初日でいきなりやらかした。これからまだカッパは必要なのに・・・嫁さんは、ケアンズにあるツアー会社窓口に連絡を入れたが、忘れ物の連絡は受けておらず、仕事終わりで休みになった運転手さんとも連絡が付かない状況。ツアー会社が直接、送迎バスを運行しているのではなく、単なるツアー窓口業務だけのようで全く情報なし。
ちょっと高価なカッパは、夜になっても連絡がなく、何処かに消えたまま行方不明。どうにもならず手詰まりとなった。日本だったら、直ぐに見つけられそうな気もするが、ここは異国の地。今頃、誰かが彼女のカッパを着ているのかも知れない。テリーに「トシ、そんなに怒ると寿命が縮むぞ」となだめられつつ、ベッドに潜りこんだ。
釣行2日目
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ノーフィッシュ |
ノーフィッシュ |