
 午前5時半に起床。昨夜は一晩中、激しい雨音が聞こえていた気がする。眠りが浅く、2回もトイレに起きていまい、寝不足感が残っている。いつもどおりシリアルの朝食を食べながらテリーに様子を伺うと、雨は洪水警報レベルの状況だったらしい。昨日の水族館以降、なんとなくお腹がゴロゴロしているので、出発する前にトイレにしっかりと寄っておく。お腹の不調は、もしかして、シリアルにぶっ掛けた豆乳(SOY MILK)が胃腸に合わなかいのかもしれない。今日一日、無理をせず大事に行こうと心に決める。
 ガレージでカッパを着てからタックルー式を車に積み込み、装甲車っぽくて格好良いイスズの四駆車D-MAX(日本国内未発売)に乗り込む。嫁さんが助手席に乗り、私は体を折り曲げて後部座席に滑り込む。この車はエキストラキャブ。後部座席はオマケみたいな物で、狭くて座面がカチカチなので長時間ドライブは少々キツイ。運転席を覗き込むと、液晶パネルが壊れていた。昨年、外気温が40℃、湿度が85%になった日が続いた時、うっかりフロントガラスにサンシェードをセットし忘れ液晶がダメになったとのこと。日本もここ数年、異常高温の日があるので、車内の液晶パネルが壊れるのは異国の地の話ではないのかも。
 フロントガラスに激しい雨が叩きつける。ワイパーをハイスピードにして、土砂降りのケアンズ市街を北上する。釣行初日はデントリーリバーを目指すのだ。天気予報によると北部方面は、ケアンズよりも天候の回復が早いらしい。猛烈な雨の中、キャプテンクックハイウェイをひたすら走る。途中、何本もある河川を横目で見ると、まっ茶色な水が溢れ今直ぐにも氾濫しそうなくらい。左手に見える山々には、「こんな所に滝があったっけ?」と思えるほど勢いの強い滝が出現している。また、路肩に迫る切り立った岩肌からは、大量の雨水が道路へ噴出し、道路脇はアチコチで水没。いよいよ、洪水の様相を帯びている。帰路は通行止めになったりしないか・・・釣りのことより、そちら方が心配になった。
 エリスビーチを過ぎた頃、雨が小降りになってきた。海を見ると海岸にまっ茶色の波が押し寄せている。タイミング的には、大潮で満潮を迎えた頃。この先へ行っても、きっと海岸沿いは河川からの泥水が流入して濁りが相当キツイに違いない。午前7時20分にバランスロックのある海岸を通過。午前7時40分、ポートダグラスへの分岐点を通過した時には雨が上がり、前方のデントリー方面は日差しが差し込み少し明るくなってきた。ウソみたいな天気の変わりように驚くばかり。
 午前7時50分にモスマンの街に入った。この小さな街は私のお気に入り。落ち着いた雰囲気があり、こじんまりとした町並みで機会があったらのんびりと滞在してみたい。街をゆっくりと走り抜け、再びサトウキビ畑を眺めながらデントリーへ向う。道路脇には、頭が黒く、体が白い大きな鳥ジャバルーがいたり、牧場には放牧された茶毛や黒毛、白毛の牛達が草を食べている。8時過ぎにバラマンディの養殖場フック・ア・バラを通過、交差点を右折しケープトリビューションロードを走ること数分、8時15分にデントリーのボートランプへ到着した。
 午前8時50分、ボートを降ろし、タックルの準備を整えてスタートフィッシング。水位は非常に高く、ドロドロの泥濁り状態。ボートランプ周辺でトレバリーがいないかチェックしたが、それらしき気配はないので上流に向ってボートを走らせる。雨上がりの強い日差しの下、疾走するボートでのリバークルーズは爽快。つい先程まで、猛烈な雨の中で洪水の心配をしていたのに、この変わりようは凄過ぎる。綺麗な水が流れ込む場所を探しながら30分程走って、良さげなポイントに到着した。
 桟橋近くに小さな流れ込みがあり、全体的にシャローエリア。岸際には私が昔、名付けたバラマンディグラスが繁茂している。この草は、日本で言うならスズメノヒエの類か。強くて節がある茎を長く伸ばす匍匐型の雑草。茎はメチャ丈夫で切れにくく、絡み合いながらベッド状になって岸際の水面を覆う。ベッドの下にバラマンディが潜むため、雑草のキワを狙ってキャストする。ミスキャストで草に引っ掛けると、引っ張っても千切れないので、ボートを近づけてルアーを回収。当然の事ながらポイントは潰れてしまう。
 テンポよくピンポイントにルアーを打ち込み、出来るだけルアーは移動させずにバラジャークでルアーを躍らせて様子を伺う釣り方。肝心なのはジャークした後、ポーズをしっかり入れること。これが出来ないとバラマンディは釣れない。永らくシーバスを釣っているとリールを常に巻いているので、ついこのクセが出てしまう。「動」と「動」の間にしっかりと「静」の間を入れれば釣果は伸びる。魚の活性が低い時ほどアクションを止めてポーズの時間を長くする。その時々のコンディションによって、「静」の間を取る時間を短くしたり伸ばしたりするのだ。
 開始間もなく、狙いどおりにバラマンディが大きな口を広げクロスウェイク111SSR-Fを吸い込んだ。豪州遠征1匹目を逃すと、その後の釣果に大きく響く事を何度も経験している。逃してはならじと、慎重に魚をコントロールしてキャッチ。サイズは57cmだった。過酷なガイド業から引退し、悠々自適に毎日生活し、「随分久しぶりにデントリーへ釣りに来た」とテリーは言っていたが、長年の経験でバラマンディが潜んでいる場所は、ピンポイントで的確におさえているのは流石だ。
 記念写真を撮って直ぐにリリース。1匹バラマンディがいれば確実にそのポイントには複数匹いるので、ヒットした場所周辺を狙い打つ。5分も経たない内に、再び私の竿が曲がったが厄介なバラマンディグラスの中に潜られてフックオフ。大きな捕食音と共に水柱が立つ程のバイトだったので、先に釣った魚よりも大きなサイズだったに違いない。ライン切れではなかったが、水中のバラマンディグラスにラインが絡まり、ルアーを回収するのに一苦労した。
 ポイントチェックは短時間。数投して反応がなければ見切りを付けて、直ぐに移動する。移動の間に水分補給をする。強い日差しの下での釣りは体力と水分を消耗しがち。私のお気に入り、ノンアルコールの強炭酸飲料 KIRKSのジンジャービールをグビグビと飲んで水分とカロリーをチャージ。水だけで一日過ごすとエネルギー切れで後半はグッタリしてしまうので、やはり糖分補給も大切なのだ。
 午前11時にティータイム。クッキーを食べながら周囲を眺めていると、青いカワセミが飛んで来た。日本のカワセミよりも少し小さくて青味が強いヤツ。テリーに名前を聞くと、エージーキングフィッシャー、日本人に発音が聞き取りやすく言い直してくれてアズユアキングフィッシャー(AZURE KING FISHER)だと言う。観察していると、小枝に止まった後、水中にジャンプイン。小魚を狙っているようだが、魚を咥える姿は見られなかった。
 今回の遠征では、嫁さんにベイトタックルを使ってもらう事にした。スピニングタックルの方がルアーを遠くに飛ばせるのだが、オーバーハング下や、ストラクテャー周り、ウィードパッチ等のピンポイントをタイト狙う釣りでは、ベイトリールの方が断然コントロールしやすい。バックラッシュの恐れはあるものの、ブレーキを少しキツメに設定。キャストを繰り返していれば、徐々にコツが分かってくるハズ。親指でスプールを止めて、瞬時にラインをストップ出来る事は、ストラクチャー狙いの釣りではアドバンテージが非常に高い。スピニングリールよりも扱いやすいハズだ。
 嫁さんは、おっかなビックリのキャストを繰り返していたが、少しずつキャストに慣れてきた。飛距離は出せないが、ボートからの至近距離なら狙うべきピンポイントにルアーを入れられるように進歩した。スピニングタックルでは、ミスキャストで樹の上にルアーを引っ掛けたり、岸際のブッシュの中にルアーを打ち込んでしまう。以前は、引っ掛けたルアーを回収する度にポイントを潰して釣りにならなかったが、この回数が大幅に減った。
 小川が合流するシャローエリアでは、ロングA(15A)に交換し、ジャーキングをする。突然、ルアーを引っ手繰られて驚いた。直後に、ルアーを咥えた魚が、水面上にハイジャンプ。元気なターポンだった。ターポンはバラしやすいので、丁寧に対処してキャッチ。ボートデッキにウンコを垂れ流す厄介者なので、写真を撮って直ぐにリリースする。サイズは36cmだった。「ターポンがいる所には、バラマンディがいる。」と言う言葉があり、周囲をロングA(15A)で探っていると狙いどおりにドカンと出た。トルクのあるファイトに引きずられ、ロッドが大きく曲がりラインが出てゆく。暫しのファイトの挙句にフックオフ。ルアーを回収すると、VMC製のバラマンディ用スペシャル太軸フックが伸ばされていた。
 その後はアタリが全くないままの時間が流れる。嫁さんのキャスティング指導をする一方で、青く美しく輝く希少な蝶ユリシスを目撃したり、緑色の巨大なアマガエルを捕まえたりする。釣りではなく、ネイチャーツアーぽくなっていたが、これはこれで十分楽しめた。午後1時、木陰に入ってランチタイム。午前中の釣果は、3人が竿を振って私が釣った2匹のみ。予想はしていたが、とてもタフな状況だった。
 また、大木の近くも私はお勧めしない。音もなく集団で体に這い上がり、襲ってくる緑色のグリーンアントがいるからだ。樹上で葉っぱを寄せ集めて巣を作るアリなのだが、コイツに噛まれると結構痛い。トイレの様子を見られるのは、自分達以外には放牧されている牛ぐらいだと開き直って、少し開けた所で清々と済ませる方が安全なのである。
 まもなく突然、激しい雷雨になった。近くの木造橋の下に緊急避難する。雲の動きは早く、少し雨宿りをすれば雨が上がりそう。雨が落ち着くまでは、橋の下でキャストをする。ココは、水深があるポイントで魚が付いているハズ。シャッドラップ8を使ってトウィッチ&ポーズをしていると50cm弱のバラマンディのチェイスがあった。やはり、魚はいても活性は低い様子。ラパラCD11に交換し、ゆっくりと沈めた後に数回トウィッチを入れ、再び沈める事を繰り返していると、60cm程のバラマンディがヒット。貴重なヒットなので慎重に対処しようと思った矢先、水面で激しくエラ洗いをされて、ルアーが吹き飛ばされた。
 悲しいかな、本日は本命魚をバラした段階で終了。いつもより早い、午後4時に納竿となった。いつの間にか雨が上がり、日差しが見えてきた空模様の下、ボートランプまで突っ走り、午後4時半にボートをピックアップ。今から嫁さんをポートダグラスの街まで送り届けるのだ。帰路、ガイド業をテリーから引き継いだウィルから電話が入った。様子を聞くと、ケアンズ方面は猛烈な雨が続き、予定していたフィッシングツアーは当然のごとくキャンセル。明日もコンディションが悪そうだったのでキャンセルしたとのこと。ウィルは、私達がデントリーで釣りをしていた事を知り、とても驚いていた。
 やっと見つけたホテルの入り口は小さく、大きな看板が出ている訳でもない。建物に入るにはオートロックの解除が必要で、その方法がとても分かりにくかった。オマケに施設内のエレベータは不具合があり動かず、上の階まで階段を使ってスーツケースを持ち上げるハメに。このホテルは失敗だった・・・と思ったが、室内は綺麗に整えられており、部屋からの眺めも良い。実はプール付きの4つ星ホテルで、無料Wi-Fi、個別のトイレとシャワー、大型TVや洗濯機完備でゆったりとくつろげそう。彼女が気に入ってくれてホッと一安心した。
 荷物を置いて、夕食を食べに街に出る。メインストリートに面しているマントラヘリテージの隣には、コンビニと大手スーパーマーケットのコールズがあり、買い物にも困らない場所だった。後から知ったのだが、同じ敷地内に3つのリゾート型ホテルが入っており、それぞれが入り組むような形でレイアウト。ホテルの受付フロントのような場所はなく、スタッフも常駐していないので分かりにくかったようだ。
 食事が終わり、嫁さんをホテルに送り届けてグットバイ。彼女は事前にネイチャーツアーとダイビングを申し込んであり、私達は2日間別行動となる。午後6時45分にポートダグラスを出発。ケアンズまでの帰路、テリーから新型コロナの影響やガイド業引退後の生活についてアレコレと聞いた。ケアンズでは、新型コロナ蔓延防止のため外出禁止令が出て、外国人の渡航もストップ。主力産業である観光業に大きなダメージを与えた。当然ながら、ウィルはフィッシングガイドなど出来るハズもなく、奥さんと小さな子供が2人を抱えて収入を確保するのに苦労したに違いない。語弊があるかもしれないが、テリーは、ある意味、良いタイミングでガイド業から引退したのではないか。
 「外出禁止が長引き、釣りのガイドも釣り場に入らないので、さぞやバラマンディが増えて大きく育っただろう」とテリーに尋ねると、彼は首を横に振った。どうやら、新型コロナの脅威が弱まり規制緩和されてから、ケアンズの人達は皆さん釣りを始めたらしい。強いフィッシングプレッシャーが掛かるほど釣り場は賑わい、釣具店はとても儲かってる様子。今回の遠征は「スクスクと育ったデカバラを釣りまくれるぞ」と思ってケアンズに来たが、その思惑は消えてしまった感じ。日本でも同じように、新型コロナ以降で釣り人口が増えた流れがあり、思わず苦笑してしまった。
 午後8時ジャストにテリー宅へ到着。荷物を片付けている際、愛用しているリョービの防水デイパックのサイド部がパックリと開いている事に気づいた。こちらに来てからの高温と経年劣化でシーリングが弱まり、生地の合わせ目が開いている。その部分は接着してあるだけで縫っていないので、触っていると徐々に裂け目が広がり、このままでは使えなくなりそう。思い返せば西表島へ遠征した帰路も、先代の同メーカーのデイバックで同じ目にあった。その時は防水デイパックのお尻部がパックリと開き、直す術もなく苦労したっけ。どんなに大切に使っていても、この手のデイパックは年月と共に蒸着部が劣化して開いてしまうようだ。今回は、テリーに2液性のエポキシ接着剤を借りて張り合わせ、見た目は我慢してその上から大型ホチキスを乱打して補強した。
釣行1日目
| 魚 種 | 
     TOSHI  | 
    
     ASAKO  | 
    
     TERRY  | 
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     バラマンディ  | 
    
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     ターポン  | 
    
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