少々、風邪気味だったので、昨晩は風邪薬とQPコーワゴールドを飲んで寝たら元気回復。午前6時15分にパッチリ目が覚めた。寝袋の中から「トシのイビキが凄かったぞ」と言うテリーに、私は耳の穴から耳栓を取り出して見せ、「テリーもだよ」と言って大笑い。大自然の中のテント生活ということで、一晩中、野生動物が動き回る際に発する様々な音がアチコチでするのだが、一番ノイジーなのはお互い隣に寝ているヤツなのだ(笑)。
朝から一笑いしたところでミルクをたっぷり注いだウィードビクスの朝食を手早く摂って3日目の釣行をスタートさせる。前日、ガニッシュ115のフッキングが悪かったので、腹のフックはカルティバST56の4番のままにし、尻のフックをST56の2番にサイズアップしてみることにした。テリーは顔にべったりと日焼け止めを塗りたくる。健康診断の際、医者から「皮膚が相当ダメージを受けているので、必ず日焼け対策をするように」ときつく言われたようだ。彼の首周りや腕は皮膚が象やサイのように分厚く変質している。長年のガイド生活で強烈な日差しと紫外線が悪さをしたのだろう。日本ではメタボ対策のことが頻繁に話題となっているが、紫外線の怖さについての情報提供は限られている。アウトドアで過ごす時は紫外線をカットするサングラスと日焼け止め、そして帽子が必要なことを痛感する。
ボートを進めながら「今日は強風が吹き荒れるだろう」とテリーが予想する。昨日、前線が通過したので、確かにかなり強い風が吹きそうだ。海の近くでは猛烈な風で釣りにならないが、このエリアは内陸部にあるので比較的影響は少ないだろう。前日までの釣行で魚がいる場所が絞れてきたので、一目散にポイントへ向かう。数分でリリーパットエリアに到着。開始1投目、テリーがテクノジャークを引いた後にロングA(15A)を打ち込み、ハードトウィッチをするといきなり57cmのバラマンディが躍り出た。実はこのロングA、豪州でバラ・ルアーの代名詞となっているゴールドボーマーではなく渡豪直前に馴染みの釣具店で買ってきたボーンカラーなのである。竿にぶら下げた際、テリーはコレを見て怪訝な顔をしたのだが、無視して使ってみたのだ。時としてボーンカラーは爆発力を秘めているカラーなのだが、前日の雨で濁りが少し入ったこのエリアにドンピシャではまったようだ。本日1匹目の魚をリリース直後、立て続けに2匹を追加し彼にその威力を見せ付ける。
8時半を過ぎると強い風が吹き始めた。「ボートコントロールが難しい」と言いながらテリーはリーズルアーで50cm程度のバラマンディを2匹キャッチするのはスゴイ。風に翻弄されずに落ち着いて釣りをしたいので、昨日90cmオーバーを仕留めたポイントでアンカーを打ってじっくり狙う。この場所は水深5〜7mが続く倒木があるエリア。デカイ魚を狙うにはデカイルアーが効果的。先ずはベイスカッド128Fを試す。これまた渡豪直前に買って、今回初めて使うルアー。13cm前後のフローティングミノーでヒラ打ちしやすそうなルアーを探していた時に目に留まったのだ。素性は全く知らないが店頭で手にした際に好印象を受け、ボックスへ突っ込んできた。重心移動機構は全く不要だと思うが、ハードトウィッチをした際の動きはイイ感じ。試してみると直ぐにバラマンディが反応した。しかし、ルアーの直前まで出てきて反転すること3回。何かが違うようで、バイトまでには至らない。
続いて「五畳半の狼」パーソナリティー菅原氏がプロデュースする大漁レッドアイを装着したアムニス1を試す。アイを交換するだけで随分ルアーの印象が変わり、これまで以上に釣れそうな気になるのは面白い。このアイに交換したから釣れるようになるのではなく、使う側の釣り人の気持ちが変わるってところがポイントなのである。信じる者は救われる・・・ルアー釣りをする上で最も大切な事に違いない。蛇足だが、菅原氏もバラ釣りをする時にはテリーにお世話になっているようで、私とはテリー繋がりってところのようだ。
バラマンディが潜んでいるピンポイントにアムニス1をブチ込み、ギラッ、ギラッと身を翻すようにトウィッチを入れると、良型がチェイスしてきて目前で反転。どうにも今日のバラマンディは非常にセレクティブになっているようで、姿は見せるのだが食ってこない。ヒンチンブルック島では絶大な効果があるアイルマグネットミノーの9cmにサイズダウンしてみたが完全無視。シュガーディープに交換すると2回チェイスがあったが、食ってくるというよりは威嚇するだけって感じ。粘り強くシュガーディープをトウィッチしていると、近くを泳いでいた30cmUPの鉄砲魚が反応しパックリと食ってきた。
テリーが珍しく倒木にルアーを引っ掛けている。バラマンディがいるのが判っているオイシイ・ポイントなので、彼は場を荒らさないよう回収せずに別のタックルに持ち替えてキャストを続ける。使うのはエビを模した豪州製ルアー。見ると半透明のエビそのままって感じで、とっても旨そう。シンキングタイプなのだが、トレブルフックが剥き出しなので根が掛かりそうだなと思っていると、案の定、水中に沈むストラクチャーに引っ掛けた。これで2本の竿が引っ掛かり、No1ガイドもお手上げ。彼には暫く休憩してもらって、置き竿から伸びているラインに注意しながら私一人でキャストを続ける。しかし、徐々に魚の活性が下がってきたようで、どんなルアーを試しても反応しなくなったため、この場はギブアップ宣言。彼のルアーを回収し、次のポイントへ移動する。
11時半に赤トンボや青い糸トンボを見ながらティータイム。日本にいるトンボとそっくりなので、この場が豪州なのか日本なのか一瞬判らなくなってしまう不思議な感覚をいだく。お茶うけは、トマト&バジル味のライスパフと私のお気に入りハニーコウム(蜂の巣)"Nestle Violet Crumble"だ。ハチミツのカルメ焼きをチョコレートで包んだようなお菓子。まさしく"蜂の巣"のような感じでサクサク感があり、口の中でジュワ〜っと溶ける食感は絶品なのである。日本国内でこのお菓子が売られていたら"大人買い"したいほどだ。
一服した後はトローリング(ドラッキング)を試す。強い風が吹くと魚が川底に沈み沈黙するため、非常にタフになる。こんな時は、キャスティングよりもディープエリアを長い距離引けるトローリングが有効。使うルアーはハルコ4m+。トローリングをする際に、テリーのボックスから必ず出てくるのが、この大きなミノー。リップも含めた全長は15cmくらいある。実力は度々自分の目で確認しているので違和感なく使えるのだが、始めて見る人はそのボリュームにきっと驚くに違いない。テリーは、魚深をジックリ見ながら地形を確認し、引っ張るルアーが最適なコースを通るようにボートを操る。トローリングの際は、ただ竿をじっと持っているだけではダメ。時折、シャクリを入れてルアーにイレギュラーなアクションをさせるのがポイント。そしてアクションをさせた直後の僅かなポーズでガツンと食ってくる。結局、キャスティングでもトローリングでもやっている事は同じなのである。キャスティングではヒットゾーンへのコンタクトが点になりがちであるのに対し、トローリングでは線で捉えるため釣れる確率が高まるのだ。
このビラボンは直線距離が短く、倒木や立ち木が多いので、トローリングを十分行うほど直線距離が確保できない。狭いエリアを行ったり来たりしたがワンチャンスもないまま、僅か15分で終了した。この辺の見切りの付け方は、やはりプロ。少なくとも私達が釣りをやっている3日間手付かず状態のディープエリアでワンチャンスもないということは、狙いが間違っているということ。いくら粘っても魚の顔は見られそうもないので、再びキャスティングゲームに戻る。
太陽が真上に位置し強い日差しが降り注ぐ中、ボートを流しながらバラマンデイが潜んでいそうなポイントを狙い打つ。しかし、幾らキャストを重ねても反応がない。辛うじて、テリーがクーラーバングで鉄砲魚を仕留めたのみ。私は持参したルアーをアレコレ試しながら、様子を伺ったがどれも不発。ボックスをゴソゴソやってルアーを選んでいると、バイブレーションを試していない事に気が付いた。竿先にぶら下げたのはLC社のLV300。サイドキャストやピッチングでピンポイントにルアーをバンバン打ち込みテンポ良くジャラジャラやっていると、岸際の切り株近くからグッドサイズのバラマンディがブワッと現れた。しかし、これはチェイスのみ。一瞬、答えに近づいたかと思ったがバイブレーションは空振りだった様子。一方、テリーはゴムルアーを試した後、白いスピナーベイトを試していた。彼がスピナーベイトを試すのを初めて見たように思うのだが、「万策尽きたので使ってみます」って感じでキャスト&リトリーブを繰り返していた。
12時半過ぎ、キャンプサイトに戻り昼食にする。高さが1mを超えたワイルドターキーの巣に驚きつつ、キャンプ地周辺の落ち葉をせっせと掻き集めている雄鶏を暫し観察しながらコンビーフとトマトを挟んだサンドウィッチを頬張る。相変わらず雌鳥は巣作りに一切関与せず、巣の周りをうろつきながらエサを探している。試しにパンくずを放り投げると、直ぐに駆け寄ってきてパクつく。心情的に、遊んでいる雌鳥よりもせっせと仕事をしている雄鶏にエサをやりたいので、出来るだけ雄鶏近くへパンを投げるのだが、雌鳥の方が機敏で先に拾ってしまうのだ。
午前中の釣りを振り返りながら午後の部をどうするか考えたのだが、2人の結論は・・・昼寝。疲れが溜まってきたようで、私はイスに座ったまま1時間半程スヤスヤと寝入ってしまった。地面に麻袋を敷いて寝ていたテリーは、足の指を度々ワイルドターキーに突かれたらしい。大きくて鋭い嘴で突かれたので、とても痛くマジに親指をもぎ取られたかと思ったそうだ。
午後2時半から再スタート。上流へ向かってボートを走らせ、良さげなポイントを叩いてゆく。やっとの思いで釣れたのが30cmの鉄砲魚。ヒットルアーはバラマンディ釣りの大会で何度もウイニングルアーとなっているクラシックバラ。当然、バラが反応すると思って使っているのだが、あまりの日差しの強さに魚がシャットダウンしてしまったようだ。水温は28℃で、決して悪くない温度なのだが、日差しが悪さをしているに違いない。「午後4時からがスタートだ」と言い切るテリーを信じて、時合が訪れるまでじっと我慢する・・・。テリーがシャッドラップ9でバラマンディをバラしたのが合図となって、突然、魚が反応し始めた。ポイントは「日陰」「リリーパット」「ストラクチャー」の3つの要素が重なった所。彼はバラした直後に50cmを釣り上げ、ルアーをシャッドラップ7にサイズダウンして65cmをオーシャングリップで掴み上げる。そして今回の遠征の最大魚と思われる90cmUP確定のバラをシャッドラップ9で掛けた。巨大魚との格闘を固唾を呑んで見守っていたが、数分後にフックオフ。だだっ広い海域だったら魚を獲れたと思うのだが、随所にストラクチャーが潜んでいるビラボンではやはり難しかったようだ。
一方、私はWスウィッシャーのウーンデットザラUで水面をかき混ぜた後にシャッドラップ8を投入。30cmそこそこの小バラをキャッチ。DDパニッシュに交換し、トウィッチの後のポーズを長めにとってみると50cmUPのバラマンディがヒット。いきなり1m近いハイジャンプをしてルアーを弾き飛ばして逃げていった。バラマンディ釣りの醍醐味は、目の前で繰り広げられる派手なエラ洗いとジャンプ。デカバラは滅多にジャンプをしないのだが、50〜60cmサイズはとてもアクティブでこの釣りの魅力を楽しむことが出来るのだ。
最上流部までボートを流してUターン。釣り下りながら水深2.5m程度の倒木がアチコチにあるエリアを探る。なんとなく魚の反応が鈍ってきたので、「何を使おうか?」とテリーに相談したところ、「シャッドラップ オア シャッドラップ オア シャッドラップ!!」という明確な答えが帰ってきた。「タフな時こそ基本に戻り、確実に釣れるルアーを使え」と彼は言う。釣れない時にとかく陥りやすいのが、アレコレとルアーを変えて無駄な時間を費やし、結局タイミングを逃してしまうパターン。魚の活性が高い時はどんなルアーでも釣れるのだが、渋くなった時は基本に忠実になり釣れるルアーを投げとおす事が大切なのだ。彼の助言どおりシャッドラップ9を使い始めてまもなく50cmのバラを2匹キャッチ。テリーもバックシートで同サイズを1匹追加し、このルアーの持つ魚を引き寄せる力を確認した。
因みにシャッドラップには各サイズあるのだが、フィッシングプレッシャーが高いケアンズ近郊では、SR7、SR8がメイン。ケアンズから離れ魚のサイズが大きい場所ではSR8、SR9がメインになる。なお、SR5はターポンやグランター釣りには重宝するのでお守り代わりにボックスに1個は入れておきたい。勿論、シャローランナーモデルでも魚は釣れるのだが、トウィッチをした時の動きや障害物回避性能を考えるとロングリップの方が遥かに効果的だ。カラーはゴールド系をベースに考えることをお勧めする。
午後6時、上流部の岸近くにテントを設営した1組の親子がいたので挨拶する。学校は春休みだというのに、広大なキャンプエリアに私達を含め4人しかいないというのは驚く限り。彼らも釣りをするので、釣果を聞くと1日やってバラマンディの小さいヤツを2匹釣ったとのこと。それでも彼らは大満足の様子。一般的な豪州人にとってバラマンディは、とても希少で価値の高いゲームフィッシュであり、美味しい魚なのである。私はいつの間にか腕の良いガイドの手厚いサポートを受けているのを忘れ、「釣れて当たり前」という感覚になっていた事を反省する。時々、テリーから「普通の人には、こんな釣れないんだぞ」という言葉を聞くが、それはきっと真実なのだろう。
キャンプサイトへ戻りながら、夕マヅメの勝負で私はガニッシュとトリプルインパクトを引き回す。一方、テリーはテクノジャークを投げまくるがいずれも撃沈。午後6時半から夕食の準備に取り掛かる。今宵はOZビーフとジャガイモ、ニンジン、ブロッコリーの温野菜添え。コーラにたっぷりとラム酒を注ぎ、じっくり味わいながら疲れた体にエネルギーを補充する。日本の洒落たレストランで食べれば1万円くらい取られそうな豪華な食事に大満足。そして食後は日本から持ち込んだ釣り雑誌を見ながら雑談をする。ページの開き方が豪州の雑誌とは左右逆なので違和感があるようだが、「日本の釣り雑誌はイラストが多く、見ていて楽しく判りやすい」とテリーは言う。豪州の釣り雑誌と比較すると確かにイラストは多いが、それ以上に釣具を紹介するページが日本の雑誌に多いことに気がつく。魚釣りの雑誌というよりは、メーカー側が釣り道具を売らんがための雑誌になっているのではないか・・・。
暗闇でガサガサ音がしたので懐中電灯を照らす。そこにはヒキガエルに似ている茶色い大きなカエルがいた。コイツは過去の釣行記でも紹介したことがある外来の毒ガエル「ケイントード(オオヒキガエル)」。テリーはスコップを振り下ろし、いきなりザックリと抹殺した。コイツは過去に豪州政府がサトウキビを食い荒らすビートルを退治するために、1930年代に外国からクイーンズランド州のサトウキビ畑に導入したのだ。しかし、害虫駆除には全く役立たず他の昆虫や小動物を食い荒らした。原産国ではサトウキビ畑の害虫退治をしてくれているのだが、豪州には害虫であるサトウキビビートルよりも美味しいエサが周囲に沢山あったようだ。水溜りがあればそこで繁殖し、どんどん生息域を広め隣接州にまで拡大しそうな勢いがある。
更にやっかいなことに、コイツは毒を持っていて、このヒキガエルを食べたペットや豪州特有の肉食有袋類ノーザンクオール(フクロネコ)、ヘビ、鳥などの野生動物達が次々に死んでしまう事件を引き起こしている。あらゆるものを食いつくし、自分達を食う食物連鎖の上位動物まで殺してしまうのだ。ケントードが侵略したエリアは食物連鎖が崩れ、生物がいなくなってしまうと聞く。天敵がいないので瞬く間に勢力拡大。農薬を使わないで害虫駆除をするために導入したカエルが、かえって生態系に著しい影響を与えてしまったという皮肉な事例であることは明白だ。見つけ次第、1匹ずつ殺すしか方法がないとすれば、この外来生物の蔓延と悪影響を防ぐことは出来ないだろう。何故なら雄・雌の1組のケントードが1年後には7万匹に増えるのだ。豪州政府やボランティア、NPOが侵入防止柵やワナを設置し駆除を進めているが、その効果は・・・。
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TOSHI |
TERRY |
バラマンディ |
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鉄砲魚 |
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