
 昨夜は、かつて経験していない程の薄っぺらい煎餅布団を、畳みに敷いて背筋をピンと伸ばして横になった。普段は、Sealyのベッドとマットレスで心地よく寝ているので、あまりにも感覚が違い過ぎた。「きっと、体が痛くなって寝られないんじゃないか」と心配したが、布団に入ったら秒殺。かなり疲れていたようで、直ぐに夢の中に落ちていった。
 今朝は、午前6時半に起床。服を着替えて朝食前に宿の周辺を散歩する。故障した冷蔵庫が建物の隅に何台も重ね置きされ、二度と動くことはないであろう壊れたジェットスキーも放置されたまま。昔、初心者ダイビング教室で使った大きなプールの底には、緑色に淀んだ水が溜まっていた。栄枯盛衰・・・以前は相当賑わっていた宿であろうことは、たやすく想像できるのだが、現在とのギャップは相当大きいに違いない。
 少しして、朝食が運ばれてきた。大振りなお茶碗に山盛りの御飯。焼き魚や卵焼き、野菜炒めとたっぷりの納豆、そしてお味噌汁と煮物・・・スポーツをする大学生が合宿に来てガツガツ食べるようなボリューム満点の朝食に、私達はびっくりした。「こんなに食べられない・・・」と嫁さんの口から言葉が漏れる。丸一日釣りをするので、しっかりと食べておかないと途中でバテてしまう。強い日差しの下では体力の消耗が激しい。「完食は無理かも・・・」と思っていた私だったが、味付けが丁度良くパクパクと食が進む。
 午前9時前、西表島のフィッシングガイド、マリンボックスのヨネちゃん(35歳 京都出身)が宿に私達を迎えに来てくれた。かれこれ15年も西表島の釣りに関わっているらしい。船上での飲み物は各自用意する必要があるとの事なので、港に行く前、スーパーに立ち寄ってペットボトル1.5Lを1本、500mlを2本買い込む。港へは数分のドライブ。潮位の関係もあるのだろうが、かなりのスロースタートって感じでゆっくりと準備を進め、陸揚げしているボートを下ろす。
 準備が整った午前9時45分に出船。初日はクイラ川を目指す。美しい海と島々を眺めながら、ボートはゆっくりと進む。西表島の釣りは初めてなので、ヨネちゃんから聞きたい事が山ほどある。矢継ぎ早にアレコレお話を伺った。
 午前10時半、クイラ川を少し入ったマングローブ帯のシャローエリアからスタート。嫁さんが使うタックルに、アイマのエアラコブラをセットしてキャストしてもらう。テンプラ気味のへなちょこなキャストだったが、ポッピングを始めたら水面が割れていきなりバイト。こちらは未だルアーをセットしていないのに、西表島遠征の記念すべき1匹を掛けた。結構、イイ引きをしているので、ファイトの様子をハラハラしながら見守る。ボート脇に寄ってきた魚は、バラクーダ(25cm)だった。
 初めての西表島なので、釣れる魚はなんでもOK。しかもトップで釣れれば、最高なのである。私も手早く準備を済ませキャストを開始したが、ヒットしたのはまたしても嫁さんの方。ルアーを回収中にボート際でドカンと出たから彼女はビックリ。ファイトの様子から、先に釣った魚より明らかに大きそう。魚とのやり取りについてアドバイスしながら慎重に魚を寄せた。キャッチしたのは・・・再びバラクーダ。サイズは50cm。バラクーダの2連発で新品同様だったルアーは、鋭い歯により塗装がガリガリにはげてしまった。この魚は、オーストラリアと同じく厄介者なのだ。
 9月中旬というのにセミが賑やかに鳴いているので、いつまで鳴くのかとヨネちゃんに聞くと、セミは一年中鳴いているらしい。昨晩、晩飯の帰りに真っ暗な道路わきの草むらで光っていたのは、もしかして・・・ホタル?と尋ねると、当たっていた。更に驚くことに、本土に生息するホタルとは違って幼虫も光り、こちらでは一年中、どこかでピカピカ光っているらしい。小川が流れるような水辺近くの場所ではなく、山の中にもいるらしいので驚くばかり。私が知っているホタルとは随分生態が違う。1965年に発見され1967年に新種として発表された国の特別天然記念物イリオモテヤマネコの生態も未だ明かされておらず、西表島は神秘に包まれている。
 岸際に岩があるエリアを撃っていくと、私のロングAにやっと出た。魚はロウニンアジの子供のメッキアジ(20cm)。きっと群れているハズなので、次なるチャンスを期待してキャストを重ねるが不発。続いて、豪州遠征でも魚種を選ばず良く釣れるデプスレスを試すがこつらも不発。ならば、トップ系のルアーを・・・とボックスの中で目にとまったのがプロップダーター。使い始めて数投目でマングローブジャックがルアーに襲い掛かったが、フッキングミスした。
 時計は12時を回ったところだが、魚の活性が高いので昼食は後回し。釣れている時に竿を振っておかないと、後で後悔するのである。トップウォータープラグに魚が躍り出るポッピングに目覚めてしまった嫁さんは、船首で仁王立ちになってエアラコブラを投げまくっている。岸際ギリギリなどのタイトなキャストは、未だ難しいようだがストラクチャーが少ない場所なら心配いらず。コチラは自分の釣りに専念できるので、ルアーをアレコレと交換しながら様子を伺っていると、嫁さんのポッパーにまたしても爆裂バイト。
 魚は結構良い引きをしているのだが、動きが変だったのでヨネちゃんとファイトの様子を暫く見守る・・・。ボート際に寄って来たのはメッキが2匹。Wヒットだった。ポッパーのフロントとリアのフックをそれぞれの魚がパックリと咥えており、ヨネちゃんがタイミング良くランディングしてくれた。
 午後1時前に木陰にボートを寄せて昼食となった。昼御飯は、アオチビキという魚が入った焼魚弁当。朝食はボリューム満点だったが、このお弁当も御飯がギュウ〜と詰まっており、どっしりと重い。残すのはもったいないので、無理やり胃袋に詰め込むような感じで食べ切った。高温下での釣りは思いのほか体力を消費しているので、食事の時にはしっかりと栄養補給をしておく必要がある。毎日、職場の食堂で掛けソバや掛けうどんを食べて過ごしている私の胃袋は驚いているに違いない。
 30分程休憩しながら、ヨルちゃんが使っているノリーズのルアーをアレコレと見せてもらう。野池のバス釣りでは、かつて小型クランクベイトのワーミングクランク ショットに随分とお世話になった。最近のミノー類は、少し意地悪っぽい個性的な顔付きをしているので釣り人の好き嫌いが分かれているようだ。私のボックスには入っていないので、物珍しくもあり、じっくりと拝見した。
 クロダイを釣った後、再び彼女のポッパーにヒット。これまでのバイトとは明らかに違い迫力のある捕食音に、思わず手を止めて振り返った。水面に出来た波紋は大きく、良型のマングローブジャックと思われた。何度もリールからラインを引きずり出されつつも少しずつ引き寄せる。
 少しして船尾で竿を振っていたヨネちゃんの操るノリーズのポッパー ザグバグに爆裂バイト。小さいながらもファイトは激しい。どんな魚がヒットしたのか確認するため、暫し手を止めて事の成り行きを見届けることにした。彼がキャッチしたのは、25cm前後のマングローブジャック。このエリアのレギュラーサイズとの事なので、私がランディングの際に落とした嫁さんのマングローブジャックはグッドサイズだったに違いない。
 午後になると風が強まり、へなちょこキャストをしている嫁さんはトラブルメーカーに変身。ルアーやラインが風に流され、「どうしてそんな所に引っ掛けるの?」と思わず語気が強くなってしまうほどのミスキャストを重ねた。引っ掛けまいとビビりながら竿を振るので、ルアーの飛行速度は遅く、弾道は山なり。余分にラインがリールから引き出され、そのラインが風に流されてあらぬ所へとルアーが飛び、水面近くの根際引っ掛かるのではなく、樹上に引っ掛かるのである。
 「樹の上に魚はいないよぉ〜」と何度繰り返し言っても直らない。キャストの際、ルアーの弾道やラインを目で追っていれば良いハズ。しかし、人差し指に引っ掛けているラインが放たれた直後から、既にルアーが何処にあるのか見失っている状況にある。樹に引っ掛かる前に放出されるラインを止めれば良いのだが、毎回間に合わない。投げる本人は当然困惑しているが、教える方も頭を抱えるしかない。
 時計は午後2時半を回った。クイラ川の支流、左水落川へとボートを進める。嫁さんが20cm程のメッキをエアラコブラでキャッチ。少しして私がシャッドラップSR5でバラクーダを釣り上げた。昼前に釣ったっきり、私の竿は曲がっていなかったので、バラクーダと言えども久しぶりに魚のファイトを味わって嬉しい。この辺りはベイトが群れているので、期待も大きい。ベイトが見えるか、見えないかは、やはり大きな違いがある。直ぐに嫁さんが25cm前後のマングローブジャックを2匹とバラクーダを1匹キャッチ。
 支流を静かに遡りながら徐々に水落の滝へと進む。ここはカヌーのツアー客達がよく訪れるらしいが、魚も釣れるポイントらしい。途中、魚の反応が全くなかったので、もしかしたらココに沢山集まっているのかも・・・と期待して竿を振る。しかし、滝壺周辺は下流域に比べ明らかに水質は良いが、魚がいないのが丸見え。ルアーを追う魚の陰がチラリとでも見えれば頑張ろうという気持ちも起きるが、それらしき気配は全くない。
 クイラ川河口から30分以上、ボートで走って帰港。陸に上がった時には結構お尻が痛くなっていた。尻に敷くクッションが絶対に必要だと思ったのは私だけではないだろう。宿に戻って直ぐにシャワーを浴び、狭い浴槽内で洗濯をする。午後6時半過ぎ、ヨネちゃんに御足労頂いて夕食の予約をしておいたレストランROCOへ。ここは、ヨネちゃんがバイトをしている場所であり、今回の西表島フィッシングツアーでお世話になっているマリンボックスの宮城さんが経営しているレストランなのである。
 後日知ったのだが、バラハタはシガテラ毒による食中毒が発生する恐れがある魚らしい。沖縄県によると平成17年〜26年に発生したシガテラ食中毒(40件、患者数134名)の原因魚となったのが14件、35%を占めトップであった。しかし、沖縄方面では一般的に食べられており、とても美味しい魚として紹介されている。確かにお魚は、美味しくてレストランでは完食。食中毒にもならなかった。
 時折、店内の照明が暗くなったりするので宮城さんに聞くと、電力供給に問題があるらしい。夜、島中で一斉に電気を使うと不安定になるとのこと。石垣島の石油火力発電所から海底ケーブルで電気が送られているが、少し前まで停電が頻発。何日も電気が来ず、真っ暗な夜を過ごす事もあったらしい。離島に暮らすというのは、本当に大変なのだろう。| 
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TOSI  | 
 
ASAKO  | 
 
YONE  | 
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バラクーダ  | 
 
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メッキ  | 
 
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クロダイ  | 
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ホシミゾイサキ  | 
 
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マングローブジャック  | 
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