

 夜中の2時から明け方の4時まで、凄まじいサンダーストーム(雷雨)があった。後から知ったのだが、この時、テリーとケビンが桟橋で危険を犯して雨に打たれながら作業。一晩掛けて充電しているエレキのバッテリーと充電器を守るため悪戦苦闘していたようだ。私は一人部屋でシーツに包まって寝ていて、そんな事をしていたなんて少しも気が付かなかった。状況を知って大変申し訳なかったと反省するばかり。今回の遠征は、大小様々なアクシデントが頻発するが、色んな人に支えられいるんだと再確認した。
 出撃準備を整え、日焼け止めと虫除け薬を塗る。使う薬はもちろん「医薬品」と明記され、虫除け成分のディートが12%配合されている"ムシペールα"。日本国内で買えて肌に直接塗れる薬剤は、この商品が一番ディートの配合成分量が多くて効果が高い。残念ながらサンドフライを100%防ぐことは出来ないが、ノンガス・スプレータイプなので飛行機内に持ち込めるのが有難い。
 この薬をいつも頼りにしているだが、今回の遠征では前半でタップリ使い過ぎて途中で切れてしまった。困っている私に、テリーが差し出してくれたのがディート40%配合の"ブッシュマン"。この薬はサンドフライにもバッチリ効くので超お勧め。しかし・・・ディートは発癌性が懸念されている化学物質。おまけにこの商品はプラスチックを溶かす欠点がある。これがかなり曲者で、釣師の身の回りには、プラスチックで出来たルアーやボックス、リール、サングラスのフレームや時計バンドなど色々あるので要注意なのだ。
 タックル一式を雨で濡れたボートに積み込み、午前7時前に出船。風もなく曇っているので、竿を振るにはとてもありがたい天気。しかし、明け方まで激しく降った雨の影響で、水がどんよりと茶色く濁っていた。海峡を一気に渡り、昨夕、バラマンディの反応が良かったマングローブ帯に到着。水温は30.3℃で前日とほぼ変わらず。開始直後、リーズシャッドを使っていたテリーにヒットした。彼が掛けた魚は、ボートの直ぐ横で水面に躍り出た。間近で魚を見てしまった私は、思わず日本語で「出た、デカイ!!」と叫んだ。
 そのバラマンディは今回の遠征で見た最大魚。明らかに90cmUP確定の凄いヤツ。大きな波紋を残して水中に消え、近くの立ち木に一目散に突っ走る。彼はロッドコントロールで魚を誘導させたが、主導権は向こうにあった。立ち木をぐるりと一回りした後、更に突っ走ってラインを引きずり出している。ボートを立ち木に寄せ、操縦をケビンに任せてコアラのように木に乗り移り、竿を回しながら絡まったラインを解く。この間も魚は相当な勢いで走り回り、ついに水底で動かなくなった。ボートに戻った彼は、魚の反応を伺いながらポンピングで魚を引き寄せる。しかし、ストラクチャーに潜り込んで動かない。彼は水中に竿と腕を深く突っ込んでいたが、リーズシャッドを咥えていた巨大バラはマングローブの朽ちた枝に変わっていた。
 巨大バラを逃したテリーだけでなく、私とケビンも暫く脱力感に見舞われた。オーストラリアでの巨大バラマンディの殆どがトローリングで釣られている。トローリングは線や面の釣りであるのに対し、点の釣りであるキャスティングでヒットさせる事は極めてまれ。ヒットしてもストラクチャーに潜られて逃すという場合が圧倒的に多い。狙う場所がストラクチャー周りなだけに、当たり前といえば当たり前。オープンウォーターに引きずり出せれば勝算もあるが、一人で釣り上げる事はまず困難。ボートの操船などでサポートする人が周囲にいないと、到底捕れない魚なのだ。今回は操船できるケビンはいたのだが、いかんせん魚を掛けた場所が悪かった。
 ヒンチンブルック島は、見渡す限りヨダレが垂れそうなポイントばかり。他にも絶対、びっくりするようなバラマンディが潜んでいるハズ。次のチャンスを求めて周囲を撃ちまくる。ケビンのハイジャッカーにバイトがあったがフッキングミス。この後、撃てども撃てども魚の反応はなかった。島の北部へ移動し、魚を探す。時折、ジュゴンなのか、イルカ(エスチュアリー・ドルフィン)なのか判然としなかったが、水面に背中を出す生物が周囲にいる。イルカだとすれば、魚が怯えて隠れてしまうので、ルアーへの反応が悪いのは判る気がする。ツルミノー、ハイジャッカー、シャッドラップ9、ロングA、リップライザー130、B52などを次々に投入。私だけでなく、テリーもケビンもノーバイト状態が続いた。
 午前8時半に早めのティータイム。大潮の満潮で水位が高く、昨夜の雨で濁りがあり海はうねっている。船首でオシッコをしていたら危うく落水しそうになり、テリーが慌てて腰を掴んでくれた。オシッコが終わるまで両手で腰を支えてもらったが、こんなことをしてもらって用を足すなんて、子供の時以来だろう。とても緊張するので、ショボショボと元気のないオシッコが長々と続いた。洋上でのオシッコは危険をともなうが、暑い中で全くオシッコをしなくなるのは水分が不足している証拠。水分を多めに摂取して、老廃物を体から出すのが基本なのだ。
 徐々に天候が回復し、青空になってくるとセミが一斉に鳴き出した。日本のセミとは鳴き声が違う上に、数も多いので威圧感すら伝わってくる。転々と移動しながら様子を探っていると、大きめな玉砂利のある浜辺でテリーがバラクーダを1匹(60cm)キャッチ。これが船上に上がった本日の1匹目となった。セミ時雨の中、本命のデカバラに出会うため更に探査を続ける。
 やっと魚がいる場所を見つけたようなので、アンカーを下ろして粘ってみる。マングローブと砂浜に囲まれた本当に小さなスポットにB52を打ち込むとバラマンディが立て続けに反応した。しかし、ルアーを吸い込むことはせず、目前でギラリと銀色の体を光らせて反転。水中に消えるパターンを繰り返す。何かがバラマンディのお気に召さない様子。テリーがバックシートからロングAを打ち込んで64cmのバラマンディを釣ったのが切っ掛けにになり、群れの活性が急に高まった。そこは魚達の餌場である"プチ・ハニーホール"だったのだ。私がB52で58cm、ケビンがハイジャッカーで45cmをキャッチ。そしてテリーがロングAで再び50cmのバラマンディを釣った後に、フィンガーマークを追加した。
 因みにこのフィンガーマークはその名が示すとおり、体の後ろに親指を押し付けたような黒斑マークがあるのが特徴。いかにも「ココを狙ってね」という感じで、バイトマークが付いている魚なのだ。似た様な魚にモーゼスパーチがいる。魚は少し小振りだが、こちらも通称"フィンガーマーク"と呼ぶようなので、どっちがどっちだか私にはイマイチ判らない。
 午前11時、マングローブの根際を狙っていた3人のルアーに同時ヒット。私はエラ洗いでルアーを吹き飛ばされ、テリーはアンカーロープに絡まってフックオフ。2人の間に立っているケビンは、慎重に対応して65cmを釣り上げた。さすがケビンって感じだったが、この頃には全員が暑さでバテ気味。ミスキャストが増え、マングローブの枝葉や、複雑に絡んだ根にルアーを引っ掛ける事しばし。そんな時に彼らは竿を激しく煽ってルアーを上手に回収するが、私のルアーには針先ビンビンのガマカツ・トレブルRB/Hをぶら下げているので、サックリと刺さって抜けない。
 竿を煽ると、引っ掛かっていないフックが新たに刺さったりして、事態が更に悪化する。ボートを寄せてルアーを回収するため、折角のポイントを潰してしまうが、これだけでなく、しゃがんだり、腹ばいになったり、水中に腕を突っ込んで力づくで枝を引き寄せたりする事で体力を消耗する。釣りが中断してリズムは狂うし、同船者にも申し訳ない気持ちになってしまう。「That's Fishing !」とテリーは言ってくれるが、体力を消耗すると共に気持ちも凹む。こんな時は、ちょっと座って、水分補給しながら一服するのも大事なのだ。
 この頃、右手小指の先と左手人差し指の付け根が痛くて痺れていた。朝の内は大して気にしていなかったのだが、キャスト&リトリーブを重ねる内に痛みが増してきていた。実は昨日の午後、ポイント移動のためにアンカーを引き上げている最中にアクシデントがあった。揺れる船の上で鎖を引き上げている最中、ガイドとのタイミングが合わずにボートが動き出した。
 鎖が手から物凄い勢いで滑り出したため、思いっ切り掴んだら体ごと引き込まれ危うく落水しそうになるアクシデントがあった。マヌケな事に咄嗟に手を離さなかったため、鎖とデッキの間に両手が一瞬挟まれたのだ。とても痛かったのだが、その時は大した事はないと思っていた。しかし、今頃になってマジマジと指先を見ると、色が変わって腫れている。キャストの精度が落ちてきたのも、これが原因の一つだったのかも知れない。
 普段は気が付かないのだが、キャストの際に竿を握っている小指は重要な役割をしている。ゴルフでもクラブを握る時の小指は大切だと聞いているが、剣道をやっていた職場の後輩Nの話によると、竹刀を持つ時も小指は重要な役目を担っているとのこと。調べてみると、やはり小指はモノを握る時、力の配分に重要な役割を持っているらしい。この釣行記を書いている1月15日現在でも、右手小指の先と左手人差し指の付け根に痺れが残っており、結構ダメージが大きかったのだと改めて思う。ロマンチックでもなんでもない、痛かっただけの"小指の思い出"となった。
 テリーがポロリとロングAで銀色の魚を釣った。30cm程の魚で、薄っすらと茶色い縞が見える。彼はグランターだよと言っていたが、シルバーブリームではなかろうか。オーストラリアには色々な種類のブリーム(クロダイ)の仲間が住んでいるため、ミノーやポッパーでブリームを専門に狙っても面白いと思う。機会があれば一度テリーに相談してみようと思う。きっとドキドキ・ワクワクするような場所へ連れて行ってくれるだろう。
 ハイジャッカーを頑なに使い続けるケビンはフルフッキングで2匹をバラし、B52を信じて使い続ける私にも2バイト・・・魚を手に出来ない時間がゆっくり流れ、時計は11時半を回った。3cm〜4cmの小エビが水面をピンピン跳ねて逃げ回っているクリークの入り口に陣取り、キャストを重ねる。こんな所には確実に魚がいるので慎重に攻めていると、テリーが2バイト、私のルアーにも1バイトあった。うまくフッキング出来ない事を嘆いていると、テリーが「エビを吸い込んで食べているから、ソフトバイトなんだ」と言う。日本のシーバス・フィッシングで言うところの"アミエビパターン"とか"バチパターン"の時におけるバイトと同じなのだろう。
 このエリアではベイトが小さく、小さめなルアーに反応する様子。テリーが取り出したのは、アイル・マグネットミノー。きらびやかなカラーを身にまとったネオの方ではなく、ちょっと昔のヤツ。昨日、ケビンがエスチュアリーコッドを釣りまくった事がフラッシュバックする。ケビンがテリーから手渡されたアイル・マグネットミノーを使い始めると、直ぐにヒット。「どうせ、またコッドだよ〜」とにこやかに見ていたら、なんと58cmのバラマンディ。これが切っ掛けとなったのか、ケビンとテリーの竿が立て続けに曲がって入れ食い状態い。
 午後2時半過ぎ、宿に戻って遅い昼食にする。昨日の残り物であるソーセージやポテト、スパゲッティーを空きっ腹に押し込んでいると、一足先に釣りを切り上げ、プールで水遊びをしていたレスとデビィが戻って来た。様子を聞くと、テリーが朝イチで巨大バラマンディを逃した近くで粘り、デビィがデカバラを掛けたらしい。しかし、ドラグのセッティングが合っておらず、成す術もなく走られてフックオフ。その後も彼女はレスよりも張り切って竿を振り、魚を揚げていたらしい。
 ケアンズまで後、1時間少々。車中からジョンソンリバーを見て、濁りの酷さに3人一緒に声を上げる。一方、ラッセルリバーはそこそこクリアーだったので、明日はここで竿を振ってもイイかもと話をする。ラッセルリバーは規模が小さく、大きなバラマンディが沢山いる川ではないのだが、ちゃんと攻めれば楽しい釣りが出来る場所なのだ。ケアンズ市街地の手前、ハイウエーの路肩にまたしてもシルバーグレーの4WDが停車してスピード違反を取り締まっていた。良く見ると車体横にはPOLICEと書いてある。こんなのに捕まるのは、どうやら旅行者ばかりのようだ。| 
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TOSHI  | 
 
KEVIN  | 
 
TERRY  | 
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バラマンディ  | 
 
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エスチュアリーコッド  | 
 
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ブルーサーモン  | 
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ターポン  | 
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グランター  | 
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キャットフィッシュ  | 
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バラクーダ  | 
 
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フィンガーマーク  | 
 
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