
 午前5時、未だ周囲が薄暗い中、鳥達の鳴き声で目が覚めた。静かにベットから抜け出して、キッチンに行くと、丁度テリーも部屋から出て来たところだった。2人で本日使うタックルを手際よく車に積み込む。因みに、私達が使うスピニングロッドはテリーからの借り物。私は、プロキャスターV IM7(6.6ft、ミディアムライト)にステラ3000を付け、嫁さんは同じ竿にツインパワーC3000を装着してある。
 朝食の準備を手早く整えていると、いかにも眠そうな顔つきで嫁さんがヨタヨタと起きてきた。一晩熟睡したハズだが疲れは取れなかったらしいが、今日も一日彼女には頑張ってもらわなければならない。
 本日の行き先は、何ら迷うことなくデントリーリバーに決定。昨日、ジョンソンリバーでアレほど苦戦するとは思ってもみなかったと言うのが正直なところ。始めてケアンズで釣りをする人だったら、きっともっと苦戦していたに違いない。「オーストラリアに行けば、次から次へとルアーに魚が飛びついて、大きな魚がガバガバ釣れる・・・」なんて思い描いていると、そのギャップは相当大きいだろう。ガイドが精一杯、努力してくれてもどうしようもない時があるのは、自然相手だからである。逆に、余りにも簡単に魚が釣れ過ぎてしまうと、本当の趣味の領域にはならず、飽きるのも早いに違いない。
 午前6時半、準備が整ったのでケアンズの街から北に向かう。途中、ガソリンスタンドに寄り、ボートの燃料タンクを満タンにしてから国道をひたすら突っ走る。道の両側には赤や黄色、ピンク、紫色の花を付けた木々が私達の目を楽しませてくれる。12月のケアンズは暑さに耐えられれば、とても美しい所だ。
 クイーンズランドの湿潤熱帯地域が世界遺産(自然遺産)として登録されたのが1988年。私が始めてこの川で竿を振ったのが、10年後の1998年。それから結構な年月が経つが、殆ど変わっていない感じがする。そもそも、この自然環境を残すべき物として世界遺産として認定されたので、変わってはいけないのだろう。とは言え、世界中からの観光客を受け入れるため、ボートランプの周囲は、ここ数年で少しずつ整備されている。パンフレットを置く東屋が出来たり、記念撮影用の巨大ワニ頭のオブジェが設置されたりもした。一番有難かったのは、しっかりとした仮設トイレが備わったこと。これで女性でも、このエリアでの釣りはトイレの心配が減ったのだ。
 ボートランプから下流に下りながらキャストを開始。ファーストヒットはバックシートで竿を振っていたテリー。アスリート9Sで30cm程のGTをキャッチした。彼がアスリートのシンキングモデルを使うなんてとても珍しい感じがしたが、その理由を聞く前に私のスゴイスプラッシュに同サイズのGTがドカンと出た。魚は30cmそこそこのメッキなのだが、そのファイトは強烈。竿をギュンギュン曲げて、リールからラインを引きずり出した。
 丁寧にやり取りをして、最後は船の中にタイミング良く抜き上げる。先ずは確実に本日の一匹目をキャッチして一安心。記念撮影をして素早くリリース。更なる追加を期待して竿を振り始めた。すると間もなくトラブル発生。キャストした際、テリーに借りていた竿の4番ガイドが根元からポロリと折れた。
 世界遺産として認められた大自然を満喫しながら釣りができるなんて、なんて素晴らしいんだろう。「きっと、このルアーでも魚が面白いように釣れるに違いない・・・」と夢想しながら出発前に準備をしていると、日本から毎回数十種類、数にして100個前後のルアーを持ち込むハメになる。しかし、結局のところ、このデントリーリバーで使うルアーはロングA(15A)、シャッドラップ7とシャッドラップ8がメイン。これにポッパーがあれば、十分事足りるのが実際のところ。
 嫁さんからは、「そんなに沢山持って来たって、結局、使うのは4〜5個でしょ。」とハッキリ言われたりもするのだが、「それでも、やっぱり、色んなルアーを使って魚を釣りたいのだ!」と言うのが、心からの叫び。ルアー釣りは、「色々なルアーをアレコレ選んで魚を釣る」という事に大きな楽しみの要素がある。
 船首でロングAを投げていた嫁さんの竿がいきなり曲がり、リールがうなった。体ごと持って行かれそうな強い引きに、「ひぃ〜、ひぃ〜」と声にならない声を出して耐えていたが、残念ながらフックオフ。かなり良いサイズのGTだったに違いない。速い流れの中に群れが入っているようで、早いテンポでポッピングしていたスゴイスプラッシュにもビッグバイト。後ろでTDポッパーを使っていたテリーにも同じタイミングでドカンと出た。残念ながら私はファイト中にフックオフしたが、テリーは絶妙なやりとりでキャッチした。掛けた魚を確実に手に収めるには、もっと場数を踏んで技術を磨く必要があるのだろう。
 トップウォーターゲームも面白いが、前回デントリーに訪れた時には、ウォーターランドの蝦夷ミノーや湾ベイトが凄い活躍をしたのが脳裏に焼き付いている。ボックスの中から、これらを取り出し試しに投入してみたが、全くアタリはない。気がつけば、太くて力強い流れはいつのまにか消えてしまっている。足の速いGTの群れは既に移動してしまったようで、これらのルアーには1バイトすらなかった。
 その後、クリークの奥ではモスキートとサンドフライの集中攻撃。おまけに、狭いクリークの中では、嫁さんがキャスト毎に頭上や水際の木々にルアーを引っ掛けまくり、釣りにならなくなったのでギブアップ。Uターンして、私がバラマンディを逃したクリーク入り口のストラクチャーポイントまで戻った。ある程度時間が経っているので、ここには再び魚が戻ってきているハズ。3人でストラクチャー周辺を探っていると、嫁さんのシャッドラップ8にバラマンディがヒット。やはりここに居ついている魚は、サイズが結構いいようで悪戦苦闘。いかにも主導権は魚の方にある感じで、嫁さんの方が右往左往引きずり回されている。残念ながら、この魚にはストラクチャーの中に潜られてフックオフ。勝負の軍配はバラマンディの方に上がった。
 少しボートを進め次のクリークへと入る。「いかにも釣れそう・・・」と思えるような場所ばかりなのだが、実際に魚がいる場所と全くいない場所がある。これを見極めて、効率よく魚を客に釣らせられる事が出来るかどうかがガイドの腕前。彼が指し示した細い水路の真ん中には、水中からピョコンと枝が1本飛び出していた。どうやら水路の真ん中に倒木が沈んでいるらしい。3人とも使うルアーはシャットラップ8。狭い場所なので、トラブルが起きないよう気を配りながら順番にルアーを投げて様子を伺う。
 クリークを抜け出し、河口域を探ることにした。干潮時には干潟となる場所にはマゴチがいる。私達が住む静岡県の遠州地方では"マゴチ釣り"と言うと、河口域や延々と続く砂浜で10ft以上の竿を使いルアーをブンブン投げ飛ばして釣るスタイルなのだが、こちらではボートを流しながら、バスタックルでサンドバー周辺の水深が30cm程の場所をテンポ良く探っていくスタイル。僅かなカケ上がりになっているような所や、窪地に魚は潜んでいるので目の前にルアーを通してやれば大きなマゴチが一発でパックンチョ。ルアーを投げて巻くだけのお手軽な釣りなのでゲーム性は低いのだが、狭いクリークの中でミスキャストを繰り返してストレスが溜まっているような時の気分転換には良い。
 マゴチが不発だったので、河口周辺のマングローブエリアをチェックする。私のシャッドラップ8にマングローブジャックがヒット。釣り上げるまでの様子を嫁さんにビデオ撮影してもらい、いざ魚を抜き上げる時になってフックが外れてポトンと落ちた。思わず嫁さんから「オ〜ノォ〜」と声が出た。続いてのハプニングは嫁さん。過去の遠征でデプスレスが結構イイ仕事をしていたので、彼女にお試しで使ってもらった。このルアーは小型だが、シャッドラップやロングAに比べ良く飛び横風があっても扱いやすい、しかも良く釣れるのだ。
 傘の骨組みのような形をして咲く赤い花、アンブレラツリーを眺めながら暫くキャストを続ける。嫁さんが暑さで少しへばって来たようなので、木陰に移動し午後1時半過ぎにランチタイムとなった。いつものように手早くサンドウィッチを作ってパクついてから、少し長めの休憩を取る。そして午後の部の開始前にボートランプまで戻り、トイレを済ませて準備完了。
 強い日差しが徐々に傾いて来たので、これからが勝負。潮位を考えながら組み立てておいた作戦通りのタイミングで、日陰側になるマングローブの根がスパイク状に川底から伸びているメインポイントに入った。テリーが最初にバラマンディ(45cm)をキャッチした後、続いて私がロングAでGT(35cm)をヒットさせ、船首に立って水中から一気に引っこ抜いてキャッチ。次は、嫁さんの番だ・・・と期待していたら、見事にマングローブの根にルアーを引っ掛けてこのポイントを潰す。
 このバラマンディ、ボートに上げてから気がついたのだが、背中にタグが付いていた。タグ付きのバラマンディを釣ったのは、これが始めてだったのではないか。タグを摘んで刺さり具合を確認したが、しっかりと刺さっていて周囲の肉が少し盛り上がっていた。生育調査魚であるため、ダメージを極力与えないように魚には一切触らず速やかにリリースした。
 スパイクエリアでGTを追加した後、ボートを更に上流へと進める。ストラクチャーをタイトに攻めたり、マングローブの根際ギリギリにルアーを打ち込んだり、スパイクエリアでネチネチとルアーをアクションさせるのは私にとって楽しくて仕方がない。一方、釣りをやり始めて間もない嫁さんにしてみれば、このような釣り方はハイレベルなテクニックを要求しており、実はかなり酷なお話。
 川の流れを意識しながらポッピングをしていると、直ぐに魚のチェイスがあった。彼女は開始早々にTDポッパーで35cm程のGTを続けさまに2匹釣り上げ、笑顔がこぼれた。私は名品スゴイスプラッシュを使って40cm弱のGTをキャッチ。続いて、岸際近くをポッピングしていたら水面が爆発し一気にラインがリールから引きずり出された。これまで釣っていたGTとは明らかに魚のサイズが違う。テリーは6〜7kgサイズのクイーンフィッシュだと言う。
 ここから魚との長時間にわたる対決が始まった。ポンピングで魚を引き寄せてからラインを巻き取るが、直ぐに寄せた長さ以上にラインが引きずり出される。時間を掛けて引き寄せ一旦はボート際まで魚が上がってきたが、再び猛烈な勢いで走ってゆく。暫くして、急に魚が異常に暴れだした。テリーが言うには、サメに攻撃されているらしい。その後、一直線にラインが引きずり出されてラインブレイク。20分程掛けて私が格闘していた相手は、クイーンフィッシュから途中でサメに変わり、挙句の果てにスゴイスプラッシュまでロスト。疲れきってボートデッキにへたり込み、ガックリと肩を落とした。(この様子はYouTubeの動画で御覧あれ)
 午後5時に納竿。ボートを引き上げ、ケアンズに向って爆走する。沿道で美しく咲いている花々は2週間程度で終わってしまうらしい。咲き始めてから既に1週間が経っているので、残り1週間。「年末年始が丁度お花の見頃だなんて、いいところだなぁ」と感心していると睡魔が襲ってきた。足をパンパンに腫らせてヨタヨタしていた嫁さんには快適なシートの前席に座ってもらい、私は硬くて垂直に立っている窮屈な後部座席。座り心地が悪くても、睡魔には勝てない・・・ふと、気がつけば、テリー宅に到着。
 お宅では、マリアさんがサーロインステーキを焼いて私達の帰りを待っていてくれた。赤ワインを頂きながらハーブの香りがするパンとサラダも腹一杯に詰め込みエネルギー充電。食後は、明日の釣行に備え、テリーの作業ガレージでトラブルが多かった嫁さんのラインを交換する。今回、新品のYGKベイサイドシーバス14LB(1.2号)を巻いてあったのだが、キャストミスでアチコチに引っ掛けたり、ストラクチャー狙いで強引な釣りをするので太いPEラインの方が良いと彼は言う。今回、予備に持って来ていたラインはスーパーファイヤーライン24LB(1.5号)。「もっと太いラインは持っていないか?」と尋ねられたが、持っているのはコレだけ。| 
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 TOSHI  | 
 
 ASAKO  | 
 
TERRY  | 
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バラマンディ  | 
 
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GT  | 
 
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ジャベリンフィッシュ  | 
 
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マングローブジャック  | 
 
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