
 早朝5時半に目が覚めた。夜中に寒くて2回も起き、トイレに行ってしまった。ケアンズの8月は結構寒いのである。嫁さんを起こさないように静かにベットから起き上がり、釣行の準備を整えて居間へ移動する。テリーも私同様、早起きで朝食と釣行の準備を手際良く進めている。朝食はいつもどおりのシリアル。ウィートビクスにデイツ、バナナの輪切りをぶち込み、ミルクとハチミツをたっぷりと注ぎ込む。とてもシンプルなのだが、短時間で十分な栄養と食物繊維を手軽に摂れるので朝食としてのスタイルはこれでOKなのだ。
 朝食後は、テリー宅の周囲をぶらりと散歩をする。イヌと散歩中の女性に挨拶をすると、何とその人はケアンズ在住の日本人。早朝に日本人に会うとは思いもよらず、近くにいたテリーを交えてお話をする。彼女のお名前はミカさん。テリーとは朝の散歩時に良く話をするようで、ご近所さんらしい。イヌも人懐っこい性格で、日本語を理解しているかのようだった。
 リーフフリートターミナルに向う途中、アウトドア関係の大型店BCFを横目で見る。2006年頃に開店したケアンズ最大の総合ショップらしいが、私はまだ行った事がないので一度足を運んでみたいお店なのだ。因みに、BCFはboating,camping,fishingの略だとテリーから教えてもらった。
 ケアンズからブルースハイウェイを南下すると、30分も走らない内に正面に富士山のような山が見えてくる。この山の名前は、ウォルシュ・ピラミッド山(通称ピラミッドマウンテン)。"ケアンズ富士"とも呼ばれるぐらいカッコイイ形をしている山だ。ケアンズから25km程度と近く、手軽に山登りが出来るスポット。山頂では360°のパノラマ風景が楽しめる。因みに、登山道スタート地点の標高は35m。922mの山頂までの高低差およそ900mという急な上り坂が続く。毎年8月には「ピラミッドレース」が開催され、100名程の参加者がこの急斜面を力走するらしい。
 サトウキビ畑やバナナ園を横目で見ながら、ひたすら南下する。ケアンズは良い天気だったのだが、50km程走った所にあるバビンダの廃墟になりつつある砂糖工場を通過する頃から雲行きが怪しくなってきた。そして、イニスフェイルの街に入った時には、思わず笑ってしまうくらい激しい土砂降りの雨になった。
 ベイエリアがダメだったので、更に下流へと下り、岸際に鬱蒼と茂っているマングローブの根際をチェックする。ベイトロッドにはシャッドラップ8、2本のスピニングロッドにはTDポッパーと湾ベイトをセットしており、状況によりこれらを使い分けてゆく。開始30分、湾ベイトに待望のヒット。しかし、魚の顔を見る前にフックオフ。反応があった倒木周りを重点的に攻めていると、直ぐに2度目のチャンスが到来した。
 続いて、テリーが名前不明のメタルバイブでGT(40cm)をキャッチ。このまま入れ食いモードに入るかと思いきや、パタリとアタリが遠のく。"マゴチハウス"と呼んでいる水路の分岐点にあるサンドバーに移動。ここでは、水面に突き出ているマングローブの根にルアーを引っ掛けないように注意しながら周囲を探る。マゴチがいれば、さほど苦労せずにルアーにアタックしてくるのだが、反応は全くない。水温は21℃と低く、ベイトの群れも見られず"マゴチハウス"は空振りに終わった。
 更なる追加を求めて、キャストを繰り返したがメッキの反応はない。岸際にある倒木周辺を探って、バラマンディの様子を伺ったが影すら見られなかった。午前11時にティータイム。開始2時間が経過したが2人で3匹しか釣れていない事に危機感を感じつつ、甘くて白いペーストがベットリと塗りたくられている菓子パンを頬張る。
 紅茶を一杯飲んで再スタート。河口域の真ん中にポツンとあるポールが立つ岩場周りを攻めてみる。潮位が高ければ、この岩場は水中に沈むので、このポールは注意喚起のためにあるのだろう。いかにも誰もが狙いそうなポイントなので魚がスレていそうな感じ。ここでテリーが何処からともなく取り出したのが、ZBLミノー50S。岩場周りをキャストしていると、彼は小さなてクロダイをキャッチした。テリーは2012年9月のアラクン遠征以降、このルアーが相当気に入っている様子。困った時には必ずこのルアーの出番。"ゼビエ〜ル"と祈りながらキャストリ&トリーブを繰り返していると、願いが届いて魚をつれて来てくれる。
 期待していたジョンソンリバーにおいても単発でポツポツとしか魚が釣れず、釣りをしていても気分の盛り上がりが感じられない。河口域にある幾つかのクリークに入って魚を探す事にした。使うルアーはシャッドラップSR5、ZBLミノー50S、そしてアイプロップ75S。アイプロップ75Sは最近流行っているWプロップ系のルアー。ペラが回りながら真っ直ぐ泳ぐだけのルアーだが、表層から少し下げたタナを狙えるので、トップに出ない魚に効果がありそう。オーストラリアでも効果があるのか確かめたくて持参した。
 反応の薄い本流を諦め、狙いを絞って入ったクリークでは、サンドフライの猛攻にあった。カッパを着ているので肌の露出は極めて少ないのだが、僅かに露出しているピンポイントにサンドフライが集中するから性質が悪い。気が付けばカッパの上には、地肌にたかろうとチャンスを狙っている無数のサンドフライがビッシリと着いていた。結局、魚の顔を全く見ないままクリークから退散。
 午後12時半からランチタイム。うっかり、激辛のカラシ"Hot Englishマスタード"をタップリと塗り過ぎて鼻の奥がツンツン。ヒーヒー言いながらサンドウィッチを食べて、午後の作戦を練る。やはり当初計画どおり上流域に移動することにした。途中、シャローエリアで魚を見つけたテリーが白いソフトプラスチックルアーを使って25cm程のクロダイをキャッチ。私はTDポッパーを広範囲に投げながらGTやイクーンフィッシュを探した。
 やはり汽水域はパッとしないのでボートを一気に上流へと走らせる。国道橋や鉄道橋をくぐり抜けると、綺麗な水がゆったりと流れるウィードエリアに入った。ウィードが生えていると淡水域に入った事が判るのだが、昔に比べて圧倒的にウィードの量が減っている事が気になった。流域周辺は農業地帯。テリーに聞くと、バナナ園から流れ出る農薬の影響だろうとのこと。ウィードが減ると、そこに住む魚の種類や生息数が大きく影響を受けるハズ。このままだと、ポッパーでパカパカ釣れていたスーティーグランターなどは、希少魚になってしまうのではないか。
 この河川に来た時にはいつも狙う、赤土剥き出しの垂直壁ポイント前にボートを定位させて魚を探す。この場所は川がカーブしているアウトベンド側。上流からの流れが壁に強く当たり、部分的に反転流が起きている格好のポイントなのだ。水中には崩れ落ちた土塊や流れてきた倒木など沈んでおり、フィッシュイーターには上流から流れてくるベイトを待ち受けるのに適している場所に違いない。岸際ギリギリを狙い、小型のシャッド系ルアーを投げ入れて流れの中でトウィッチすれば確実に魚が出る場所なのだ。
 「このポイントで何匹か釣っておこう」と軽く考えていたのだが、その考えは甘い事にすぐ気がついた。テリーと2人で実績のあるシャッドラップ5、シャッドラップ8を投げ込んだが反応はない。水温が低いため、普段より魚が沈んでいる可能性があるため、湾ベイトを使って攻める水深を下げてみたが反応しなかった。小型バイブも効果的なので、ラトル音が賑やかなTN50も試してみたがコツリともアタリはない。最後にテリーが白いゴムルアーを投げて勝負に出たが竿は曲がらなかった。
 雨脚が強まり土砂降りの様子を呈してきた。全く魚が釣れない状況で、黙々と竿を振るのはまさに修行と同じだ。こんな時でも、作りがしっかりしているカッパを着ていれば、大幅に不快度は軽減される。透湿防水は当たり前。止水ファスナーやゴム付きの二重袖口、そしてキャストの際に動作を妨げない立体裁断などは絶対に必要だ。カッパは他の釣り道具と違い、金額に比例して明らかに性能がアップする。買う際にお金をケチると、厳しい自然条件の中で辛い思いをするのだ。
 水中に沈む倒木周りや、オーバーハング下、バックウォーターなど魚がいそうなポイントは徹底的に叩いてゆく。昼食をした後の午後の部で、やっとヒットしたのが午後3時。岸際の雑草に覆われた倒木付近をシャッドラップSR5で攻めたらガツンと来た。ストラクチャーの中に潜り込もうとする魚を引きずり出し、オープンエリアでファイトをする。ルアーをズッポリと飲み込んでいたのは、グッドサイズの色黒スーティーグランターだった。
 午後5時にボートをピックアップしてケアンズに向う。走り始めて直ぐ、ワイパーが効かない程の猛烈な雨となった。その昔、私がケアンズを訪れると、乾季の真っ只中でも雨が降るのでテリーの仲間達から「雨男」「アメ・マグネット」と呼ばれていた事を思い出す。雨が降っていても、活性が高まって魚が釣れれば何ら問題はないのだが、この時期の冷たい雨はダメ。体力と気力を奪われ、車中では猛烈な睡魔が襲ってきた。
 「バナナを買って帰るぞ」とのテリーの一言に反応して、一瞬眠りに落ちていた私は目を覚ます。お馴染みのバナナ無人直売所でA$1.5/kgの大きなバナナをガッツリと買い込んだ。手にしたバナナは、普段日本で朝食時に食べいてるバナナの3倍ぐらい重くてズッシリとした物。遠征2日間の釣果は見事に滑りまくっているので、バナナを仇だと思って食らいつく。| 
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 TOSHI  | 
 
TERRY  | 
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クイーンフィッシュ  | 
 
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GT  | 
 
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マングローブジャック  | 
 
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クロダイ  | 
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スーティーグランター  | 
 
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