一晩中、雨の音を聞きながら寝ていた気がする。外の様子を伺うと、やはり雨がシトシトと降っていた。ベットから起きた時に、何故か納豆の香りが辺りに漂う。前夜、レストランで納豆を食べたわけでもなく、日本から納豆を持ち込んだわけでもないのに何故なんだろう? その答えは朝食を済ませ、着替えをしている時に判った。
なんと、納豆の香りは2日間釣りで履いていたズボンとビーチシューズからムンムンと立ち上っていた。きっと、初日にマグレブリバーの浅瀬で川の中に入り、ボートを引っ張った事が原因だと思う。荷物を減らすため、替えのズボンとシューズは持参してこなかったので、ニオイを我慢して足を通すことにした。どうやらMASAさんも、同じ目に合っているようで「雨雨ボーイズ」から「納豆ボーイズ」に改名だ。
動くたびに、ほんのりと香る納豆のニオイに朝からちょっとブルーな気持になりつつ、ガイドの到着をホテルのロビーで待つ。今日一日私達のガイドを務めるのは、最近テリーとチームを組むことになった全くの新顔のガイドだ。テリーは連日のガイド業で、やらなきゃいけない雑用が山積みになっているらしく、1日掛けて一気に片づけてしまいたいらしい。A$8,500するヤマハのエンジンを購入したようだし、オンボロサファリの壊れたエアコンも修理に出したいようだ。
昨日、テリーは「スケットのガイドは釣りが上手いだけでなく、オレがしっかりと教えているので、仕事もちゃんとこなせるから安心しろ」と言っていたが、果たしてどんなガイドなのか興味津々。もし変なガイドだったら、旅行代理店に文句を言わねばと心に決めていた。
ボートを牽引した黒いサファリで現われたガイドの名前はガビン・ニュー(31歳)。ニックネームはグルーバー(GROOVER)。仲間たちは親しみを込めて、そう呼ぶらしい。意味は「素敵なヤツ」とか「いいヤツ」という事みたいだ。「何だかモンスターみたいな名前だなぁ」なんて言ったらニガ笑いをしていた。ちなみに、ちょっと発音が似ているGROPERはクエ(魚)の事。(誰かGROPERとCODの違いをご存知でしたらメールで教えて下さい。)
私と同じハイラックスに乗るというグルーバーは31歳。テリーと一緒に仕事が出来ることを本当に喜び、誇りに思っているようであった。マーリンのガイド歴は長いようだが、バラマンディのガイド歴は日本人客5回、豪州人5回やっただけ。最近の釣果を聞くと、3日前にマグレブリバーの河口で大型のクィーンフィッシュをポッパーの早引きで釣ったという。またガイドをやっていた時に、ケアンズ湾で客が115cmのバラマンディを釣ったらしい。まだ10回しかバラのガイドやっていないのに客にメーターオーバーを釣らせるなんて、もしかしたらこのガイドは「一発屋」!?
一昨日、魚はウジャウジャいるのにルアーには全く反応せず、2時間やって1匹しか釣れなかったマグレブリバーに向う。ガイドによると今日の計画はスーティーグランター狙いをやった後、川の状態が良ければ河口でクィーンフィッシュ。もし状態が悪ければケアンズ湾へ行くと言う。国道脇の古いボートランプからボートを手際良く降ろした後、グルーバーは少し離れた駐車場まで車を置きに行き、走って帰ってきた。客に少しでも待たせまいと、急いで走って帰って来る姿を見た時、このガイドはイケルぞと直感した。
本流から幅の狭い水路に入り、テンポ良く両岸をポッパーで打っていく。グルーバーは木の上を指差し、「魚は上からフルーツが落ちてくるのを待っているので木の下を狙うように」と指示を出す。開始まもなく、MASAさんがイエローマジックでスーティーグランターのグッドサイズ(35cmUP)を2連発。ターポンも掛けたが、船縁間際で見事なジャンプをされフックオフ。一方、私の方は何度かアタックがあるのだが、フッキングには至らずスゴイスプラッシュでグランターの同サイズを1匹キャッチしたのみ。
お馴染みのピンクの甘い砂糖がべっとりと載っている菓子パンを食べながらティータイム。すかさずガイドが使っているルアーをチェックさせてもらった。テリーが使っているボックスの中を始めて見た時、金黒カラーのルアーだらけで驚いたが、今回は別の意味で驚いた。ミノーはどれもデカくて、しかもカラーは蛍光イエローやピンク、グリーン、赤などいかにも豪州ルアーって感じ。その中でも彼のお気に入りはストームのリトルマックらしい。このルアーは私が子供の頃、「なんじゃこりゃ!?」と思いつつ購入したまま、全く使っていないルアーでもある。見るからに釣れそうもないスタイルなのだが、グルーバーは随分良い思いをしているらしい。傷だらけで塗装が剥がれ落ちたリトルマックが沢山ボックスの中に入っていたのが印象的だった。
休憩後は下流に下りながらポイントをチェック。本流の状態が悪いので小川に入ると、早々MASAさんがイエローマジックでジャングルパーチ(33cm)を釣り上げた。小川の先にある古い橋の向こう側にはグランターのパラダイスがあるようで、ガイドはバックシートを外し、私達はデッキにうつ伏せになりボロい橋をギリギリくぐり抜ける。
メチャ幅の狭い小川の両側からは、熱帯雨林特有の樹木が圧倒的な力強さで押し迫ってきている。「よくまあ、こんな所にボートで入っていくもんだ」と感心しながら水中を眺めると、グッドサイズのグランターがアチコチで泳ぎ周っている。「見える魚は釣れない」と昔から言うが、デカいボートで狭い小川を突き進んで行くので、魚達は脅えてしまいルアーには見向きもしない。周囲の木々に十分注意を払いながらロングキャストを繰り返すが、ここではMASAさんと私がグランターを1匹ずつ釣り上げただけに終わった。
どこも魚の反応が悪いので河口でのクィーンフィッシ狙いは諦め、昼前にボートを引き上げてトリニティインレットに向うことになった。ザ・ピア・マーケットプレイス脇のボートランプから手早くボートを降ろし、ゴチャゴチャして迷いそうなインレットの中に入っていく。このエリアに入ると何処も同じ景色にみえて、どっちに向かっているのか方向感覚が無くなってしまうのだが、新顔ガイドはきっちりとポイントを押さえているようだ。
このエリアで釣りをする場合は、絶対に虫避け対策を怠ってはいけない。刺されると物凄く痒くなる小さな黒いブヨ(Sandfly)が生息しているからだ。チクッと感じた時は既に遅い。その時はそれで終わりなのだが、刺された次の日ぐらいから1cm程度に赤く腫れ、体温が上がると痒くてたまらなくなる。かゆみは2〜3日続き、刺された跡は酷いと1ヶ月も残ってしまうやっかいなヤツである。
現地人は免疫があるため刺されても何とも無いようだが、旅行者は暑いからって半袖、半ズボンで釣りをしようなんてもっての外。私は長袖、長ズボンそして首にはタオルを巻いて、虫除けスプレーを布生地の上からタップリと塗りまくっている。それでも、やっぱり刺されてしまう。
虫除け薬はコンビニで取り扱っている物ではなく、ちゃんと薬局で取り扱っている薬を使うべきだろう。 こんなやっかいなブヨだが、刺され慣れてくると腫れたりせず、痒みも短時間で消えるらしい。今回は前年10月に遠征した時よりも腫れは控えめで、刺された跡の治りが早かったように思う。私にも免疫が出来てきたのか。
ちなみに現地の釣具店では、水濡れに強く、虫除け効果の高い「BUSHMAN」が必ず置いてある。スプレータイフで4時間、ゲルタイプで10時間効果が維持され、日焼け止めの効果も合わせ持っている優れ物。しかし、この薬には大きな欠点がある。なんとプラスチック類を溶かしてしまうのである。使う場合は釣り具に薬液を垂らさないように注意し、塗り終わった後は十分手を洗うようにしたい。
ボートは初めて訪れる怪しげな水門の前でアンカーを降ろした。この場所は水門が開くと流れてきた小魚を狙ってバラマンディが集まって来るようで、「辺り一面ぐるりとポイントだ」とガイドからの説明があった。周囲を注意深く見て見ると、アーチャーフィッシュ(鉄砲魚)やサヨリみたいな小魚のガーフィッシュが水面近くでピチャピチャと群れている。確かに魚っ気が多いようだ。
水門が閉まっているためか、魚っ気がある割にはルアーへの反応がないのでボートを岸に寄せて上陸した。鉄格子状になっている水門のてっぺんに陣取り、反対側の水路に向かってキャストを重ねるがこちらも無反応。しかし、このポジションは足場が非常に高く水面から数mの高さにあるので、たとえヒットさせてもランディングは相当困難だろう。
ボートに戻りキャストを続けていると、MASAさんが操るライブリーペッパーにヒット。ボート近くでアタックしてきたので、ギラッと魚体が光るのが私にもハッキリと見えた。その姿からすると確実にバラマンディだったが、残念ながらフッキングには至らなかった。午後1時過ぎに昼食を摂る。ガイドがいつものテリーとは異なるので、どんなメニューが出てくるかと期待していたのだが、普段と何も変わらない即席サンドウィッチをセルフサービスで作るパターン。
昼メシを食べ始めたとたんに突然激しい雨が降ってきた。慌てて大きなパラソルを広げ、雨を凌ぎながらのランチタイム。それまではカンカン照りの晴天だったのに大雨が降り、そして何分もしないうちに雨がパッと上がってしまった。この天気の変わりようには少々驚かされた。昼食後、暫く竿を振ったが無反応。水門狙いは空振りに終わった。
魚の反応が無いインレットに見切りを付け外洋に出る。外洋と言っても所詮、グレートバリアリーフの端っこ。波は穏やかで快適なクルージングが楽しめるかと思いきや、エンジン全開で波を切り裂き船首をバウンドさせながら突き進む。ボートの縁に横座りになって必死に踏ん張りながら、ひたすら前方を見据えるしかない。延々とカッ飛んで「そろそろ勘弁してくれぇ〜」と言いたくなった頃、やっとスロットルダウン。ズボンや上着が波しぶきでベタベタになりながら、大きな岩がゴロゴロしている海岸線に辿り着いた。
波間に岩が見え隠れしている海岸沿いをロングA、シーウォッチャー、アスリート、エス・フォー、コモモ、ビジョン110などスズキ釣りでは代表的なミノーで打っていく。雰囲気からすると西伊豆の海岸線、もしくは芦ノ湖の岩場をボートで平行移動しながら、水中から頭を出している岩の周囲を縦・横・斜めと丁寧に攻めていく感じか。全く魚っ気がなくルアーにコツリとも反応が無いまま、1km以上も延々と岩場打ちを続けた。
ガイドからルアーチェンジの指示があり、彼が差し出す特大豪州製ルアーのキラルアーを半信半疑でラインの先に結んだ。ルアーはソルト用の太軸フックが3本も付いている青いハンドメイドロングミノー。雰囲気はニルズマスターの巨大ミノーって感じのヤツ。その大きさは3本フックのロングA(15A)が遥かに小さく見えてしまうほどのルアーである。正直言って、こんなサイズのミノーをバスタックルで操るのは結構骨が折れる。私は、予備のタックルとして持ち込んでいた、ちょっと硬めのアームズスティックASC-66Mとカルカッタ200にタックルを変更してキャストを始めた。
「こんなデカイルアー、どう使えば良いんだろうねぇ。」「全然釣れる気がしないんだけどぉ」などと2人でボヤキながらキャスト&トウィッチを続けていると、突然、MASAさんにヒット。こんな巨大ミノーにアタックするのはバラマンディしかいないという確信から、見ている私の方にも力が入った。しかし、しばしのファイトの後、寄ってきた魚は全員の期待を見事に裏切った42cmのメッキ。一番ガッカリしたのはきっとMASAさんに違いない。
釣れたのが冬の間、浜岡原発の温排水に集まってくるクラスのメッキだったとはいえ、魚を見たのは昼食前にMASAさんがロストしたバラマンディのみ。かれこれ3時間が経過していた。半ば諦め気分になっている時、巨大ミノーに反応する魚がいることが判り2人ともスイッチオン。ビュンビュン投げてガンガン引いていると、再びMASAさんにヒット。
今度は先程の魚よりも明らかに大きいようだ。リールからラインが唸るように出て行く。そして遥か向こう、視野の片隅にドーンと跳ねる魚が見えた気がした。「バラマンディ!!」思わず3人の口から声が出た。岩場地帯でのファイトはラインブレイクの危険性が高い。ガイドはすかさずエンジンをスタート。魚の動きを見ながら巧みに船を操り、岸から魚を引き離しにかかった。相変わらずラインは出っ放し。ラインキャパシティの少ない浅溝スプールや小型のリールだったら、とっくにスプールは空になり、ラインブレイクして終わっていたことだろう。因みに彼が使っているタックルは下記のとおり。
ロッド |
SAURUS Saltwater Sportsman |
リール |
SHIMANO BIOMASTER XT 3000 |
ライン |
PE2号(メーカー不明の特売品)10Mごと色違い |
リーダー |
VARIVAS 50LB (1〜1.5M) |
フック |
VMC 3×STRONG 2番 |
風が出始め波が立ち、潮が変わったようなので、後ろ髪を引かれる思いがしたがこのポイントから撤退した。来た時と同じようにエンジン全開で波を切り裂きながらボートが進む。到着した場所はザ・ピア・マーケットプレイス沖にあるコンクリートの堤防。ケアンズ湾の中は何度かグルグルと回ったことがあるのだが、この場所には初めて連れてこられた。このポイントは湾内に入ってきたフレッシュな海水が最初にバァ〜ンと当たるところらしい。従って魚影が濃く、時として巨大魚が潜んでいるとのこと。タイミングさえ合えば相当イイ思いができるようだ。
ここではキャスティングではなく、コンクリートの壁と平行にボートを進めてルアーを流すトローリングを行った。壁際ギリギリにルアーを通すのが良いらしく、めい一杯ボートを壁に寄せて低速で巨大ルアーを引っ張りながら行ったり来たり。腕が悪いのか、潮が悪いのか、運が悪いのか、それともルアーが合わないのか全く不明だったが、コツリとも反応はない。
午後5時半に納竿。今日一日の釣果を振り返ると、MASAさんがメーターオーバーのバラを含む6匹。一方私は、午前中にポッパーで釣ったスーティーグランター2匹のみ。辛うじてボウズは免れたが、オーストラリアまで行って僅かに2匹しか釣れないんじゃ相当辛いものがあった。1匹あたりのコストは何万円なのだろう!?ちょっと考えただけでも恐ろしい・・・。豪州で釣りができるのは残り2日。私にもチャンスが残っているのだろうか。
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TOSHI |
MASA |
GAVIN |
スーティーグランター |
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GT |
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バラマンディ |
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ジャングルパーチ |
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